伝勇伝
□眠気と甘味とそれから悪戯(ライシオ
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今日は死者が帰ってくるとされている日、らしい。どこの国だか知らないがそういう習慣があるのだそうで。
それなら是非使わせて頂きたいと考えるノリの良さが徹夜明けの彼の良いところであったりもするわけで。
「トリックオアトリート!」
言って、向かいに座る一国の主に器型にした両手を差し出すと、
「……あれ?」
返ってきたのは間の抜けた声。
シオンのその予想通りの反応に内心溜め息を吐くが、顔には出さないままにライナは話を繋げる。
「今日はお菓子か悪戯かを選ぶ日なんだって?」
「いやいやそういう習慣のある所もあるってだけでしょ……っていうか、あれ?もう今月終わり?」
「そうだけど……って何お前時間感覚無さすぎね?」
彼に時間感覚が無いことも予想通り。
自分も彼も今日で徹夜五日目だし…とそこまで思い、やるせなさに脱力。
徹夜を、五日……あの仕事馬鹿はともかく、付き合わされるこっちは身が持たないっつの。
「いい加減休めば?」
「ん……コレだけ終わったら」
終わっても休まないくせに。
毎度お決まりのあからさまな嘘に辟易する。どうせ嘘だと分かるのだから、正直にまだ寝られませんと言えばいいのに。
ていうか俺を休ませて。
「あーくそ、……トリックオアトリート!」
言い表せない理不尽さに思わず立ち上がり、例のセリフを繰り返すと、
「飴しかないけどどうぞ」
と返される。
「ぇ、持ってんの?」
「デスクワークに糖分は必須だろ。さぁ、仕事再開だ」
恨みと共に吐き出した「トリックオアトリート」はあっさり一蹴されてしまった。どうせならトリックの方が良かったのに、と貰った飴の包みを開きながらぼんやりと考える。
指で摘んだ包みの中身を口に放ると、ほのかに香る……
「……緑茶?」
「そう、新商品だって」
「んな微妙な……いやまぁ結構美味いけど」
コロコロと転がす度に緑茶の香りと砂糖の甘味が自己主張。これが意外と合うものだから食べ物の世界は分からない。
疲れた脳も相俟って半ば夢中で舐める。抹茶や紅茶やほうじ茶の飴などもあるのだから緑茶があってもおかしくはないだろうが……ひょっとしたら世間には烏龍茶や減肥茶の飴もあるのだろうか。いやそれも普通にありそうだし……お、葛湯味とかあったら画期的じゃね?
不毛な思考は果てしなく続くが流石は徹夜五日目、脳はそれが有益な思考だと誤った認識をしてしまい止めようなどとはカケラも思わなかった。
パンッ。
深みにハマりつつあった意識に、唐突に乾いた音が入り込む。
驚いて音のした方に注意を向けると、悪戯な笑顔を浮かべたシオンが叩いた両手を胸の前で合わせた格好のまま口を開いた。
「トリックオアトリート」
……秘技、トリックオアトリート返し。
「…………あ?」
思わず半開きになった口から間の抜けた声が零れ……声と共に緑茶飴も零れそうになったので慌てて閉じた。
それを見てシオンは更に笑みを深める。
「……お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ☆」