伝勇伝
□聖夜の足音、幻聴
(または、自分は不器用な方なのだとつくづく思い知った日について
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もうすぐ、今年が終わってしまう…そんな時期。生徒会長の彼女はただただ溜め息を漏らした。
「あーあ、」
どうしようか、と掲げた手の先には小さな箱。
白い箱。
真っ赤なリボンを丁寧に巻き付けた四角い箱。
綺麗に飾り付けられたそのただの箱を見て、手先だけ器用でもなぁとまた溜め息。
数日前のあの日から、自分は何度溜め息を吐いているだろう。幸せなんてもう逃げ切っているけれど、何か損した気分になるからこの息を深く吐く行為は不思議だ。それでも、いっそ溜め息の後に息を吸い続けたら空っぽの自分に幸せが少しでも舞い戻るのでは――もう止そう、考えるのも虚しい。
生徒会室には誰もいない。
当然だ。今は年末12月。本当なら学校が開いてすらいない28日閉校日。今日から1月5日まで、この学校は閉鎖空間の筈なのだ。
筈なのだが、
(まさか開けてもらえるとは…)
管理人さんに生徒会の仕事が片付かないと訴えてみた昨日。
……まさか合い鍵丸ごと貸して貰えるなんて思わなかったが、実際に貸して貰えたのだから学校に入らないわけにはいかない。目の前、机の上には仕事する気満々で書類が積んである。
なのに、自分の視線は手元に置かれたまま。これでは何のためにわざわざここにいるのか分からない。
仕事が進まないのも箱ばかり眺めるのも、溜め息ばかりなのも全部自業自得。箱を無造作に机に投げ置き、大きく大きく背伸びした。
「んっ…………ふぅ。……あーあ、」
一息、そしてまた溜め息。
……結局渡せないままに、箱はゴミ箱行き決定。
「メリークリスマス、……」
ゴミ箱に投げる寸前、言えなかった言葉だけを空気に溶かした。
呟いた筈の彼の名前は本当に空気に溶けきって、自分自身よく聞き取れなかった。
さよなら、さよなら、クリスマス。