07/05の日記

01:37
仄青い緑色の割と簡単じゃない日(ユリレ
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 だって、恋人同士っていったらそんなもんだろう……なんて、簡単に言うなよ?


 口に運んだ銀色のスプーンを落としそうになった。

「は……何?」

 先っちょの窪みにちょこんと載った緑色した冷たいアイスクリーム。一口含めば、すうっととろける少しクセのあるペパーミントは、すうっと残る後味のとてもクセになる不思議な味わいで、すうっと深呼吸すればあの独特の香りが体全体に行き渡るような錯覚。
 舌先で転がしてからほぅっと息を吐く。スプーンと一緒に落とさなくて本当に良かった。
 大事に大事に冷凍保存していたそれは、今ではもう売っていないまさしく幻の味なのだ。贔屓にしていたその店が潰れて数週間、ストックはまだまだ大量だが、だからと言って決して雑に扱える程の量があるわけではない。

「だから、……ユーリにとって俺って何よ」
「何……って、そっちこそいきなり何だよ」

 質問の意図が分からない。問いに返したのもまた問いで、ああこんなんじゃ堂々巡りになってしまう事は明らかなのに。
 それでも簡単には答えられない。返した問いに返ってくるのは沈黙で、目前の人――大事な大事なその人の口はきつく紡がれて梃子でも開かなそう。
 大事な、人なのだ。どんなに冴えないおっさんでも彼はようやく心通わせた人で、つまるところ俺にとっては「恋人」で――でもきっと、そんな単純な関係を聞きたがっているわけではないのだろう。
 だから、答えられない。
 沈黙までまたそっくりそのままオウム返ししてしまった。さてどちらが先に均衡を破るか――なんて考えている内に、

「っておい、ちょ、待てよおっさん!」
「ごめん馬鹿な事訊いたわ忘れてちょうだい全力でぇぇぇぇっ!!」

 恥ずかしがり屋の恋人は茹でダコ色の頬をして脱兎の如く走り去ってしまった。
 後に残されたこちらはひたすらぽかんと口を開けて立ち尽くすしかない。その内逃げる際の恋人の顔を思い出して、何とも居たたまれない気持ちになった。

 ――俺にとってアンタが何かって、そりゃパッと表現出来る筈無いけど。

 強いて言うなら春の風のようなもんだ、考えてから自分の詩人っぷりに頬が熱くなって、誤魔化すようにペパーミントを一口だけ口に運ぶ。爽やかなそれはさっきよりも甘いようで、でもさっきよりもすっとしない気が、少しだけした。

 

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