07/15の日記

01:30
オリジ 小話二本
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ep1

 その家族には会話というものが一切なかった。
 朝起きてから夜寝るまでの間、家族間で交わすものは視線と身振り手振り。それ以外にも例えばちょっとした、醤油差しを取ってあげたりみたいな動作なんかもあるだろうが大まかに言えばそれだけで全てが済んだ。話す、はコミュニケーションの手段ではなかったのだ。
 それを、部外者であるこの私が一家の長男に指摘した。すると、家族とはまったく会話をしないくせに私には控えめにゆっくりと、しかしはっきりとした声で言った。
「ん……会話、してるよ」
 目配せして「ん」とか「ああ」とかだけ話すのだそうだ。
 私は、あんたらのそれは話しているのでなく呻いているのだと彼の頭を思いっきり平手で叩いた。ぱしんという小気味のよい乾いた音が無性に虚しくて膝からやる気が抜け出てしまい、その勢いの無いような勢いに任せてぺたりと床に座り込んだ。尻から伝わる板張りの床の温度は何故か生温く、心地悪さに脱力感が増してしまった気がした。



ep2

 好きな音楽を聴いていると体から力が抜けていく気がする。ここまでは色々な方に同意を頂いた。良い曲だと脳が判断したそれを聴き入っているときに力が抜けてしまうのは、まぁ概ね仕方が無いのだそうだ。人は皆、それをリラックスしている状態だという。
それでも私の場合、まるで寝るように段々と力が入らなくなっていく。曲の終盤まで来るとそれはもう悲惨なくらいに体の動きが鈍くなる。一時間程同じ曲をリピートし続けても飽きが来ることはないが、その場合は代わりに動きが鈍くなるという表現なんて目じゃないくらいに体が固まってしまう。関節が硬くなり、節々が痛くなる。感覚的に言えば、そう、例えば机に突っ伏すなどの無理な体勢での居眠りの後に近い。喉だってカラカラになる。
そこまで言い終えて、さて、私に同意をする方は一体如何ほどいるだろうか。そう思い周りを見渡すと、先程まで同意をしていた彼、彼女らは先程とは全く違った生温い目で苦笑交じりにこう言うのだ。
「人それぞれでいいんじゃない?」
 それを聞いてから胸中ひっそり溜め息をつき、それから大仰に、
「力が抜けてしまうおかげで聴き入っているうちに寝てしまうなんて事もしばしばだ」
なんて言い、話したいことは全て話し終えたとばかりに一息吐く。そうすれば再び笑顔と同意が得られるのだから、結論から先に言ってしまえば過程など別段気にする事でもないのかもしれない。
――と、こんな風につらつらと語った挙げ句、最後には勝手に納得してしまうこの性格こそ言われるべきだ。
「人それぞれでいいんじゃない?」


 

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