頂き物の部屋

□夫婦願望
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「あーあ、島左近ともあろうものが情けない…まあ、大した風邪じゃないし、今日一日くらいは平穏に寝て…」

いられるわけがなかった。
すぱーんと襖が開き、疲労の元凶が飛び込んでくる。

「左近!左近死ぬなーっ!」

ドスン!

「グエェエッ!!死ぬ、本当に死ぬぅう!!」

腹に飛び乗って首根っこを揺さ振る三成に、左近は白目を向く。

「気がついたか左近!」

「殿が飛び乗る前から意識はありましたけどね!?」

「喜べ、風邪によく効く薬を持ってきたぞ!」

相変わらず人の話を聞かない三成に、左近はまた胃を押さえる。

「ああそりゃどうもありがとうございます、じゃあ薬だけいただいたら左近は寝るんで殿は帰ってくれますかね」

「安心しろ左近、今日は俺が介抱してやる!秀吉さまに許可はいただいた!」

「そう…ですか…」(泣)

ああもういいや、どうとでもなれ…

「左近どうした?嬉しくないのか?」

しゅんと眉をさげた悲しい顔で聞かれて、左近は首を振る。

「いえいえ、左近は嬉しいですよ、こんなに家臣思いの殿に恵まれて…」

「よかった、では早速薬を…」

「あ、殿、ちょっと食欲がなかったもので、実はまだ朝餉もとってないんですよ。だから薬はその後に…」

「大丈夫だ、口から飲むんじゃないから」

ぴしり、と左近が固まる。

「ものすんごく聞きたくないんですが……じゃあどうやって摂取するんで?」

「そりゃもう、下のあ…」

「ギャアアアァ!!何て物を持ってくるんですか!」

「兼続が調合してくれたのだ、きっと効くぞ。なにやらこれを使えば『欲しくてたまらなくなる』とか…楽しみだな左近!」

「それもう風邪薬じゃないよね!?とにかく!!左近の風邪は薬なんか使わなくても静かに寝てれば治るんですよ!そんな怪しげな薬は使いません!」

「この歳で薬嫌いとは…駄目だぞ左近!俺は左近に早く良くなってもらいたいのだ!無理にでも使わせてやる!」

「ギャアアアァ!!」

どたんばたんと、左近の悲鳴と共に部屋が揺れる。

「だったら殿!自分でやりますからっ!」

主にそんな事をされるくらいなら、どんな怪しい薬でも自分で放り込んでやる。
左近の必死の訴えに、

「駄目だ。兼続に使い方を教わったが、まずは下準備として舐めたり指を入れて掻き回したりしてから薬を入れれば効果が絶大らしい。俺が手伝ってやるから」

「あんのイカ男ーーー!!!殿になんてこと教えやがるんだッ!!!」

「わかったなら左近、さっさとするぞ!」

「嫌だったら嫌です!!余計やらせられるかッ!!」

「そんなに嫌なのか?」

「ええ嫌ですよ!殿もいい加減引いてください!」

「そんな…だったら…だったら俺にも入れていいから!それならおあいこだろう…?」

言うと、三成はするりと服を脱ぎはじめる。
憂いを含んだ顔で、「左近、入れてくれ…」だなんて言われ、左近は一気に青ざめる。

「左近が嫌なら、俺もするから…だから…」

「ちょ、殿…!」

うっすらと涙を浮かべた瞳で見つめられ、白い肌を惜し気もなくさらした主に四つん這いで迫られて、左近はうっと言葉につまる。

「左近に良くなってもらうには、これしか方法が…」

「殿、そこまで左近の事を…」

ああ、むしろこのまま殿を食らってしまいたい。
どうせ一生この主についていくと決めたのならば、愛し愛されるのも悪くない。
殿は怒るだろうが、そうすればそのあとで殿が望むようにこの身体を差し出してもいい、それこそおあいこだ。
左近がその身体に手を伸ばした所で、

「…あ、そういえばもう一つ方法があった」

「…へ?」

「兼続が、どうしても嫌なら鼻の穴に詰めても効果は変わらぬと」

「…………」

「………左近?」

葛藤のあげく、その日は鼻に薬を詰めた左近だった。

「どうだ?左近、何か欲しくなってきたか??」

わくわくと、左近の布団の横でかいがいしく介抱をしながら薬の効果を気にしている三成に、左近は苦笑する。

「まだいまのところは…って…」

ぐぎゅるるるる〜…

「腹が減ったのか??」

「なんか猛烈に腹が減って…ごはんが欲しい…」

「おおっ、欲しくてたまらなくなるとはこの事だったのだな!なるほど飯を食えば体力もつく!すごいぞ兼続!」(キャッキャッ)

「兼続さん…なんて紛らわしい薬を…」

それからたらふく飯を食べた左近はその日のうちに風邪は治り、嬉しそうな三成と共にまた仕事へと戻って行った。



数日後。

「左近〜、夫婦にはいつなってくれるのだ」

またいつものように左近に甘えながら尋ねる三成に、

「さあ、殿の左近を思ってくださる気持ちもわかりましたし…あとは殿の頑張り次第、って所でしょうかね?」

「左近っ!」

ぎゅむ、と三成が抱き着く。

「でも、一度殿を食べさせてくれれば、道は近いかもしれませんよ」

「んなっ…!」

左近の言葉にうんうんと必死に考え込む三成に、左近は声をあげて笑った。



よかった、左近が笑った。

殿、それは俺の台詞ですよ。




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