太公望×趙雲 お話

□過去の傷
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あれからの太公望は時々いつもの岩場に現れる。
趙雲は毎日のように馬を走らせ、太公望が居ると家に連れて帰り、食事を作り夜は共に熱く過ごして。朝になると太公望はどことも無く帰って行く日々を過ごしていた。
趙雲は幸せだった。
愛する人と時々でも過ごせるのだ。

今日も馬を走らせ、例の岩場に向かうと、太公望が釣糸を垂らして釣りをしている姿が目に入って。
趙雲は馬から下りると足早に近づき。
「太公望殿。今日は居て下さいましたね。」
太公望は視線を趙雲に向けて。
「嬉しそうな顔をする。そんなに貴公は私と共に過ごすのが楽しいのか?」
「ええ。愛する人と過ごせるのです。それに勝る幸せはありましょうか。」
「それならば、たまには私の家に招待しよう。」
太公望の言葉に趙雲は驚いたように。
「家って仙界ですか?」
「仙界に人を連れて行く訳にはいかぬ。この世界にも家があるのだ。私とていちいち仙界に戻る訳ではない。仮の家が必要だからな。」
そう言うと太公望は釣り糸を巻き、竿を持って立ち上がり。
「私の手を握りしめるがいい。そして瞼を瞑ってくれるか。家に招待しよう。」
「太公望殿の家に行けるとは、嬉しい限りです。」
趙雲は差し出された太公望の手を握り締める。
瞼を瞑った途端、ふわりと身体が浮いたような気がして。
思わず目を開ければ、すごい勢いで上昇したかと思うと、はるかかなたの高さの空を飛んでいるようで小さく霞む景色が飛ぶように眼下を過ぎていくのが見えて。
太公望が。
「目を開けるな。気分が悪くなるぞ。人は空を飛ばぬものだからな。」
趙雲は太公望に思わずしがみつき瞼を瞑れば太公望は飛びながらもフっと表情を緩めて微笑み優しく趙雲を抱き締めて。

どれくらいの時が過ぎたであろうか。
身体が下降していくのが感じられて。
ふわりと地に足がつくのを感じた趙雲が目を開ければ辺りはうっそうと木が茂る山の中で。
しかし目の前には木々に囲まれた中に一件の小さな木造の家が見える。
脇は崖になっており、横には川が流れているようで、水の流れる音が聞こえて来て。
太公望が草に覆われた入口に近づき、ガタガタと戸を揺らしながら開け。
「ようこそ我が家へ。入るがいい。」
趙雲は太公望に続いてその小さな今にも崩れそうな家の中におそるおそる入って見た。
中は暗い。そして上がり口の奥は狭い廊下が見えて。
太公望がすぐ左の部屋に入って行くのに、趙雲も後に続いて入ってみれば。
そこは竹で編まれた涼しげな一人用の寝台。窓は広く取ってあり、木々の緑が青々と見えて川に面している。壁一面には本が天井近くまでぎっしりと置いてあり。
趙雲は辺りを驚いたように見渡していれば、太公望が。
「質素で驚いたであろう。私とてこのような狭い所を好む訳ではない。利便性を考えてだ。書を取るのに便利であろう。寝台があれば書を読みながら眠る事も出来る。」
趙雲は太公望に向かって。
「何だかここは落ち着くような気がします。太公望殿が心を休める場所なのですね。」
「そのように考えて貰ってかまわぬが。」
「ありがとうございます。」
趙雲が礼を述べるのに太公望が怪訝そうな顔をして。
「何故、礼を言う。」
「そのような大切な場所に私を連れてきて下さって。ここは太公望殿の大切な場所。本当は誰にも教えたくないのではありませんか?」
太公望は頷いて。
「確かにここを知っているものは他には居ない。伏犠や女カとて知らぬ。」
「そのような場所に連れてきて下さる太公望殿のお気持ちが嬉しいのです。」

太公望はふと思い出したように。
「待っているがいい。」
そう言うと別の部屋に入っていったようで、四角い木の箱を持って部屋に戻ってきた。
趙雲がその箱を見て。
「何が入っているのですか?」
と聞けば太公望は箱を開いて。
「私の宝物だ。」
中には色とりどりの宝石に飾られた腕輪や首飾り等が入っており。
「人というのは美しい物を作り出す物なのだな。これなど貴公に似合いそうだ。」
趙雲に差し出されたのは繊細な銀の細工が複雑に絡み合う中に大きな青の宝石が3つ中央にちりばめられた首飾りで。

差し出された首飾りに趙雲はとまどったように。
「私は武将なのです。このような物は似合いません。」
「趙雲…貴公は美しい。」
趙雲は首を振り。
「以前にも言った通り、私は綺麗ではないのです。」
「何が…貴公を苦しめている。貴公の心の奥底を知りたい。」
趙雲の胸に手を当てる太公望。
趙雲は後ずさって。
「いやです。いやだっーーーー。」


趙雲は太公望の力によってそのまま気が遠くなった。




注意 次のページは複数×趙雲展開です。
それでもよろしければ。苦情は受け付けませんよん。
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