太公望×趙雲 お話

□太公望の想い
1ページ/1ページ

太公望はあれからも時々、岩場に出かけて釣りをしながら趙雲を待った。
しかしあの事があって以来、趙雲は岩場に現れなくなって。
かと行って趙雲の屋敷にまで出かけようと太公望は思わない。
どういう顔をして趙雲に会いに行ったら良いかも解らない。

− この私とした事が、人の子にこうも心が掻き乱されるとは… −

釣り糸をしまうと立ち上がる。ある男に会いに行こうと思った。
佐和山と言う石田三成が収める領土に居るはずだ。

太公望はふわりと身体を浮かせると、空を飛んで佐和山へと向かうのであった。

その男は川の中で下帯だけの姿で子供らと遊んで居た。
「おう、気持ちがいいのう。一汗掻いた後の水浴びは最高じゃ。」
そういいながら伏犠は頭から水を被る。それだけでは足りず、水の中に潜ると泳ぎ出すも、沈みそうになるのに、顔を川面から出せば子供らにからかわれて。
「おっちゃん。泳ぎが下手だなぁ。」
「俺たちが教えてやろうか。」
伏犠はムキになって。
「なんの、慣れれば上手く泳げるようになるわ。」

太公望は岩場に降り立つと、そんな伏犠の姿を見つけ声をかける。
「愚かしい。人の子と戯れるとは。伏犠とあろう仙人が。」
「なんじゃ。坊主か。」
伏犠は川から上がると太公望に近づき。
「わしの元へ来るとは何か起きたか…」
「我らが出向くような事は起きてはいない。平和な事だ。」
「それじゃ…何の悩みだ?聞いてやろう。」

太公望は鼻で笑って。
「さすがは伏犠。私が悩みを持ってきたと見抜いたか。」
「用がなければわざわざわしの元へ来ぬじゃろう。」
伏犠はそう言うと下帯だけの姿で岩に腰を下ろした。
太公望は眉を寄せて。
「私も伏犠の事を言えぬようだ。好きな人の子が出来た…」
伏犠は楽しげに笑って。
「ハハハハ。坊主がのう。人の子に恋をしたか。そいつは目出度いことじゃ。」
「だが、その男を傷つけてしまった…どのような顔をして私は会いに行ったらよいのか解らぬ。」

伏犠は太公望に近づくとポンと肩を叩いて。
「傷つけたのなら謝れば良い。一人で行きにくければわしも一緒に行ってやろうか?」
「謝って許してくれるだろうか…」
「坊主が気持ちを見せれば許してくれるじゃろう。そう信じてのう。何もしなければ想いは伝わらぬぞ。」
そう伏犠は言うと、呪文を唱える。
パァっとその身は銀と黒の鎧に包まれて。紫のマントを翻しながら伏犠は。
「そうと決まったら参ろうか。」
「すまぬ…」

太公望は伏犠と共に再び空を飛んで、趙雲の屋敷に出向いたのであった。
扉を叩くも返答は無く。
太公望は扉を開けて趙雲の屋敷の中に入る。
夕日に照らされたその部屋の寝台の上で趙雲は眠っていた。
青い顔をしてやつれた様子である。
太公望が趙雲に声をかける。
その様子を背後から伏犠が見守っていた。

「趙雲…趙雲…」
趙雲が瞼を開ける。
太公望の方を見つめて。
「太公望殿…」
「どうしたのだ?ここ数日岩場にも来なかった。」
趙雲は瞳から涙を流して。
「どうして会いに行けましょうか…私は太公望殿の傍に居たい…でもそれ以上に申し訳なくて…こんな汚れた身で貴方に愛される資格などないのです。」
「貴公の過去を見せたのは私が悪い。すまぬと思っている。許してくれぬか…どんなに汚れていても私は貴公が好きだ。」
趙雲は首を振って。
「私の事はお忘れ下さい…どうか…このまま…」

伏犠が近づいて、太公望の横に来ると趙雲に向かって。
「趙雲とやら、坊主はお主に惚れておるぞ。お主は良いのか?ここで手を離して…後悔はせぬのか?傍に居たいのなら傍におればいい。」
「貴方は…」
「わしか。わしは坊主の仲間の仙人じゃ。お主がどんな過去を持っておるのかわしは知らぬ。だが過去は過去…変えようもあるまい。わしはお主がこの坊主とこれからを生きて行く事を望みたいのだがのう。」
「これから…ですか…」
「そうじゃ。これからじゃ。」
そう言うと伏犠は。
「お主、何も食していないのでは無いのか?これからこの坊主と共に上手い飯を作ってやろう。だからのう。気持ちを明るく持って。良いな。」

伏犠は太公望を連れて台所に行き。
「お主、作ってやれ。」
「私はろくな物は作れぬぞ。」
「下手でも良いのじゃ。心が籠もっておればのう。わしが手伝ってやろうぞ。」
仙人二人は術を使う事も無く、近所に出かけて材料を分けて貰うと野菜の煮物を作り始めた。太公望は危なげな手つきで包丁を握って野菜を切るのに伏犠はカラカラと笑いながら。
「趙雲とやらの為だ。頑張れ。」
「頑張れと言われても…くっ。この私が…」
大根、人参等、野菜をやっと切ると鍋に入れて薄く塩で味付けをする。

趙雲は二人が台所で料理をするその後ろ姿を寝台の上からじっと見つめていた。
やっと煮物が出来上がると太公望は皿に入れて盆に乗せ趙雲の元へ持ってきた。
盆の上の皿を差し出して。
「食べるがいい。」
「食欲がないのです。」
「一口だけでも…」

身を起こしてサジを手に持ち野菜を一口食べる趙雲。
「美味しい…」
「だったらもっと食べてくれないか。」
太公望が見守る中、趙雲は野菜の煮物を二口、三口と口に入れ綺麗に皿を空にしてくれて。
伏犠はその様子を太公望の背後から見つめていたが。
「わしはそろそろ帰るとしよう。左近が心配するからのう。後は二人で。良いな。」
太公望が礼を言う。
「今日はすまぬな。」
趙雲も。
「私の為に…わざわざありがとうございます。」
伏犠は趙雲に向かって。
「趙雲とやら。坊主を頼むぞ。この通りちょいと変わった奴じゃがのう。根はいい奴じゃ。」
そう言うとマントを翻し伏犠は出て行ってしまった。

二人きりになった太公望と趙雲。
趙雲は太公望に向かって。
「美味しかったです…太公望殿。」
「それは良かった。」
「本当に…良いのですか?こんな私でも傍に居て。」
太公望は趙雲の手を握って。
「傍に居て欲しい…趙雲…」
「嬉しいです。お願いがあるのです…私を愛してくれませんか…今…ここで抱いて欲しい…」
太公望は趙雲の言葉に。
「貴公が望むなら…いくらでも抱いてやろう。」
太公望は着ている服を脱ぐと全裸になり寝台に上ると趙雲の上に覆い被さった。
その夜着を脱がせて、下帯も取り趙雲も全裸にして。

その唇に優しく口づけをする。
趙雲も瞼を瞑り口づけを受け。
太公望が趙雲の一物に手を伸ばして触ろうとした。
だがその身体に触れてみて感じる物があった。
「今宵はやめておこう。」
「太公望殿…」
太公望は身を起こすと趙雲を心配そうに見つめ。
「貴公の気が弱っている。その身が治ったら改めて…」
「嫌です。」
趙雲が太公望に抱きついて叫んだ。
「私が好きなら抱いて下さい…お願いですから。」
涙を流す趙雲の髪を優しく撫でながら太公望は。
「それは出来ぬ。貴公が大切だからその身に負担をかける訳には行かぬのだ。今宵は添い寝をしてやろう。」
そう言うと趙雲の横に転がってその身体を抱き寄せる太公望。

「私の気を分けてやろう。少しずつ一晩かけて…明日になればその身も楽になっていよう。」
趙雲は瞼を瞑って。
「温かい…身体が温かい…」
「そのまま眠るが良い。」
眠りにつく趙雲の背を撫でながら太公望も瞼を瞑って。

− この愛しき趙雲を大切にしてやろう。これからも…ずっと… −

そう深く心に想う太公望であった。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ