太公望×趙雲 お話

□闇での出来事
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太公望は毎日のように趙雲の屋敷に訪れるようになった。
趙雲はというと元気が無く、家に閉じこもったままで。
今日も太公望が趙雲の屋敷に行けば、部屋の隅で身体を丸めて座っている趙雲の姿を見つけて、声をかける。
「今日は良い天気だ。外へ出かけぬか?」
「どこにも行きたくありません。」
「そういえば、仕事はどうしているのだ?劉備将軍に仕えているのでは無かったのか…」
座り込んで居る趙雲に問いかければ趙雲は。
「休みを貰いました…」

太公望はため息をついて。
「そんなに私がした事は貴公を傷つけたのか…どうすれば、貴公の傷を癒せる?全知全能たる私でもどうする事も出来ぬのだな。」
趙雲は太公望を見つめると。
「悲しい顔をしないで下さい。貴方が悲しむと私も悲しい…」
太公望は手を差し出して。
「連れて行きたい所があるのだ…」
趙雲は手を掴むと立ち上がり。
「これ以上、貴方を悲しませたくはない。参りましょう。」

太公望の手を握ると、二人は外へ出て太公望の力でふわりと身体が浮けば、空を浮遊して。
着いた先は伏犠の庵であった。
庭では何やら人が騒ぐ声が聞こえてくる。

伏犠が子供達を集めて臼の中の餅を杵を使ってついていた。
ぺったんぺったん、楽しげな音が聞こえてくる。
上半身は裸で餅をつく姿は仙人なんてほど遠い姿で。
伏犠の脇では島左近が餅に水をつけ手際よくひっくり返しながら、餅つきを手伝っていた。
二人の呼吸は良くあっていて。子供達も楽しげに。
「美味そうだなぁ。こんなもん食った事がねぇ〜。」
「おっちゃん。早く早く〜。」
子供達がせかせば。
伏犠は餅を勢いよくつきながら。
「待て待て。もっと良くついてからじゃ。小豆やきな粉をまぶしたら美味かろうぞ。」
左近が餅に水をつけてひっくり返し。
「さぞかし美味い餅が出来上がりそうですねぇ。楽しみですよ。」
そこへ太公望が趙雲を連れてやってきた。
伏犠が挨拶をする。
「よぉ。坊主。それから趙雲も良く来たのう。餅をついて皆で食おうとしている所じゃ。手伝ってくれぬか。」
「餅ですか?」
趙雲が問い返せば伏犠は頷いて。
「美味いぞ〜。つきたての餅は特にのう。もうすぐ餅がつきあがる。丸めてくれぬかのう。」

餅が出来上がると伏犠は木の台を用意しており、そこの上に餅を置けば、子供達も一斉にむらがって。
「これこれ手を綺麗に洗って餅を丸めてくれ。さぁ趙雲も。」
趙雲は子供達とつきたての餅を手に取り食べやすい大きさに丸めていく。
左近がそれを小豆をゆでた餡にまぶしたり、きな粉にまぶしたりして、器に取り分けて。
それを伏犠と共に太公望は眺めていた。
趙雲は楽しそうに微笑んで子供達と餅を丸めている。

伏犠が太公望に。
「良い気晴らしになったじゃろう?」
太公望は頷いて。
「礼を言おう。私一人ではどうしてよいか解らなかった。」
「まだ上手く行かぬのか…」
「人の心は良く解らぬ…」

「坊主…」
伏犠は心配そうに。
「あまり思い詰めるではないぞ。」
「伏犠…」
「お主の中の…アレが出てきたらお主は仙人として生きる事が出来なくなる。それだけではないぞ。仙界から追われる立場になるやもしれぬ。わしはお主と戦うなぞまっぴらごめんじゃ。」
伏犠の言葉に太公望はふいに笑い出した。
「ハハハハハ…ハハハハハハハっ…」
「坊主っ。」
「そうだな。支配してみるのもいいかもしれぬ。癒せぬ傷なら更に傷を深く抉るのも又、一興だな。」
伏犠は太公望の手を握り締め。
「約束してくれるか。アレの餌食にだけはしないでくれ。趙雲が可哀想じゃ。」
太公望は
「安堵するがいい。私はこれから先も全知全能の仙人で居たい。身を落とすことは私の矜持が許さぬ。餅を食べたら帰ろう。世話になったな。」

太公望はそう言うと趙雲の傍に歩いて行き。
「楽しいか?趙雲。」
趙雲は振り向いて。
「連れてきて貰ってありがとうございます。久しぶりに気が晴れました。」
「それは良かった。」
「これは私の丸めた餅です。餡でまぶして貰いますから食べてくれませんか?」
「喜んで食べさせて貰おう。」
趙雲は餅を二つ皿に載せ左近に餡でまぶしてもらって、太公望の前に箸と共に差し出す。
太公望は餅を箸で取り、口に入れて。
「美味いものだな。」
「そんなに美味しいものなのですか?」
「食べてみるがいい。」

太公望に箸を渡されて趙雲も食べてみる。
柔らかい餅と共に甘さが口に広がって趙雲は嬉しそうに。
「美味しいです。こんな美味い物は食べた事がない。」
ふと周りを見ると子供達も餅を皿に載せて餡やきな粉をまぶして食べ始めており。
「美味いっ。おっちゃん。もっと食いたい。」
「俺もっ〜おかわり。」
伏犠におかわりを強請れば。
「餅は沢山あるからのう。家族にも土産に持って帰るがいい。」
「うわ〜ありがとう。おっちゃん。」
「やったぁ。父ちゃん、母ちゃん。喜ぶぞーー。」

さんざん皆で餅を食べた後、伏犠と左近と共に酒を飲み、太公望は趙雲を連れてその場を後にした頃にはすっかり日も暮れて夜になっていた。
心地よい風と共に辺りには蛍が舞っていて。太公望は趙雲と共に見とれていた。
趙雲が蛍の灯りを見つめながら。
「もう少し、歩きましょう。それにしても何て綺麗な…」
「ああ。綺麗だな。」
「伏犠殿は良い友ですな…太公望殿を心配して気を遣ってくれて…」
趙雲の言葉に太公望は頷いて。
「古い付き合いだが…私を子供扱いして困る。」
「太公望殿…」
趙雲が太公望に顔を寄せ唇を近づけて来た。
口づけを受ける太公望。唇を離すと趙雲は。
「私を想って心配してくれてありがとう。明日から仕事に参ります。」
「もう貴公は苦しんではおらぬのか?私を許すと言うのか?」
趙雲は微笑んで。
「こんなに太公望殿が想ってくれているのです。いつまでも苦しんでいる訳には参りません。私は武将としても恥ずかしくないように生きて行きたいと思います。」
「趙雲…貴公は美しい…」
「太公望殿…」
「魂を…思うがままに貪ったらさぞかし美味いだろう…」
辺りの空気が急に冷えたように感じる。
趙雲は太公望の手を握り締めて。
「太公望殿になら何をされてもかまいません。」
「私の伴侶になるか…」
趙雲はとまどったようだった。このような言い方をされた事が無い。今までの太公望なら考えられない事だ。趙雲は決意したように。
「仙人の命は永いのでしょう…短い時で良いのなら貴方の伴侶になりましょう。」
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