頂き物の部屋

□夫婦願望
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「左近っ!俺と夫婦にならぬか?」

朝一番、顔を合わせるなり、年下の主は目をキラキラさせながら爆弾発言をした。
左近は思わず啜っていた茶をブシッと吹き出す。

「汚いな左近!そんなに嬉しいか?」

まさにわくわくと言った表情で見つめて来る三成。

「いやいやいやいやいや……殿、何か変な物でも食されたんで?」

すでにキリキリと痛み始めた胃をさすりながら聞けば、三成はさらなる爆弾発言を落とした。

「失礼な!俺は至って真面目だ。食べるなら左近を食べたい」

「はぁああ!?ちょ、誰か!誰か医者ー!!」

「むっ、妊娠したか左近!!やったな!!」

「誰がするかぁあああ!!!もうやめて!!もうツッコミきれないから!今日の殿ほんとどうしちゃったんですか!?」

「左近は朝から元気だな〜。あとツッコむのは俺だからな(ポッ)」

「人の話を聞けェエ!!!(全身鳥肌)」

いきなり豹変した石田三成…。
左近の人生はその日から大きく変わっていくのだった。

次の日も、そのまた次の日も、三成は左近に言い寄った。
どうやら本人は以前から左近を好いていたが、左近の前ではひた隠していたらしい。

「左近〜、まだ承諾してくれぬのか?俺は早く左近と夫婦になりたいのだよ」

書き物をしている後ろから、三成は左近の背中に抱き着いて甘える。
もうこの問いは何度目か。
左近は頬を引き攣らせながらも口を開いた。

「殿、よーく考えてくださいよ?殿の性別は?」

「男だ。」

「ですよね。じゃあ左近は?」

「女だ。」

「嘘つけッ!!頭沸いてんですかッ!!(いやすでに沸いてるんでしょうが…)」

「すすすまぬ、願望を言っただけだ、左近は男だ。」

「はい。じゃあ男同士は結婚できますか?」

「……できない」

「はい。よく考えたらわかったでしょう??無理なものは無理なんですよ」

「むう…でも、なりたいものはなりたいのだ…左近が好きなのだよ…」

しおらしい声で、左近の背中に顔を埋めてぎゅうと抱き着く三成に、左近は少しだけ胸が痛んだ。
ぐす、と小さく鼻を鳴らす音まで聞こえてくる。

「殿…」

左近が振り向くと同時に、三成は勢いよく立ち上がった。
三成の頭と左近の顎が激突する。

「へぐあ!!」

「左近っ!ならば俺は、秀吉さまに頼んで法を変えてもらう!」

「あだだ…、ってええぇ!?」

「俺と同じ悩みを抱えている者はたくさんいるはず。男同士でも結婚出来るよう…いや、男同士でしか結婚出来ない国を作り上げてみせる!!」

「はぁああ!?ちょ、やめてくださいよ何て迷惑な!!ってか出来るわけないでしょ!!」

「出来ぬと言われて、出来なかった事はない」(キリッ)

「駄目なものは駄目なのー!!ってか人の話を聞けバカ殿ーッ!!」

(以下武田信玄の声)
その後秀吉の承諾が得られぬままに、秀吉が没する。
男同士でしか結婚出来ない国を作るべく立ち上がった石田三成率いる西軍と、それを阻止せんとする徳川家康率いる東軍が激突したのが、歴史に名高い『関ヶ原の戦い』であ…

「んなわけあってたまるかァアアア!!!」

左近の胃痛はさらに頭痛と、叫び過ぎによる喉の痛みまで引き起こしていた…


「あ゛ー、えほっえほっ。全く、殿のせいで声が枯れちまいましたよ…」

夜、湯に浸かって汗を流していれば、すぱーんと扉が開く音がして、当たり前のように三成が入ってくる。

「俺のせいで声が枯れただと…!?腰は大丈夫か左近!」

「何の話ですか…ってか今左近が風呂に入ってるんですけど」

「男同士なのだ、問題なかろう?」

「(殿だからこそ問題がある気がする…)」

この主の頭の中は一体どうなっているのだろう…
かち割って中身を調べてみたい気がしたが、中身を見た後後悔しそうな気もする。

「左近の身体は、きれいだな」

そんな事を考えていると、三成が左近の前まで来てまじまじとその身体を見ていた。

「きれいって言うのは、殿のほうでしょ」

三成の肌は色が白く、中性的な顔立ちも相まって男であるのを一瞬忘れさせるほどだ。

「俺の身体は貧相でつまらぬ。左近のような、男らしい身体こそきれいだ。だが…左近が俺をきれいだと思ってくれるなら、俺は嬉しい」

「殿…」

三成が、左近を見つめて笑う。
普段の人を馬鹿にした笑いではなく、あどけなさが残る笑顔だった。
自分だけに見せる笑顔にどきりと左近の胸がなる。
俺を抱きたいと言うのではなく、抱いてくれと言われたのなら、戸惑いもなく身を重ねたかもしれない…
そんな事を思っているうちに、三成の手が左近へとのびる。

「えへへ、左近のちーくび!」

ぷにゅ

「………何すんだアンターッ!!!?」

風呂場においても、左近の疲れが癒える事はなかった。

三成に言い寄られるようになってから、左近は心身共に疲労が溜まり、ついには本当に風邪を引いてしまったのだった。
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