三成×幸村 お話

□佐和山の花嫁
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再臨した遠呂智を倒すのに島左近に協力し、行動を共にした幸村。
全ては終わり一応世は平和になったけれども。
左近達と別れ、自らの屋敷に戻った幸村だったが、身体の具合が優れなかった。

遠呂智との戦いで肩と腰に負った傷がなかなか治らなくて…
幸村は傷に良く効く温泉がある宿の噂を聞き、そこでしばらく身を休める事にした。

しかし、その温泉を選んだのは、佐和山の城が近いから。
そう…幸村が密かに想いを寄せている石田三成が佐和山の城の殿様だから。

湯治にかこつけて、三成に会いたい。そう思っていた。
きっと三成は佐和山の城に帰っている。

左近とは行動を共にしていた分、話をする機会が多々あったのだが、三成とはしばらく会っていなくて。募る話をしたい…

いても立っても居られず、赤の鎧に六文銭の鉢巻を締め、自らの得物、炎槍索戔鳴を手に馬に乗ると佐和山の城に向かったのであった。

佐和山の城に着けば、玄関口まで左近が羽織、袴姿で出迎えてくれて。
「幸村。この前は世話になりましたねぇ。こんなに早く再会出来るとは思いませんでしたよ。」
「あの…三成殿は帰っておられるのですか。」
「ああ。あの意地っ張りですか。戻っておられますぜ。幸村が来たと聞いたら喜ぶでしょ。さぁ中に入って下さいよ。」

幸村が左近に案内されて城の中に入ってみれば、執務室で三成は筆を手に仕事をしており、幸村の顔を見ると嬉しそうに微笑んで。

「良く来てくれたな。幸村。」
「お久しぶりです。三成殿。」
「左近から話は聞いている。大活躍だったそうだな。」
三成の言葉に幸村は慌てて。
「大活躍は左近殿です。気むずかしい方々をまとめて、見事、遠呂智を倒したのですから。」
「遠呂智を倒す一太刀を浴びせたのが幸村だと俺は聞いているが。」

左近が盆に湯飲みを乗せて、部屋に入ってきながら。
「幸村の活躍がなかったら、遠呂智を倒す事は出来ませんでしたぜ。」
「左近殿までそんな…全ては左近殿のお陰です。」

三成が左近が置いた湯飲みを手にしながら。
「しばらくゆっくりしていくがいい。城に部屋を用意させよう。」
「今宵は泊めて頂いて、明日から湯治に行こうと思っているのです。」
「どこか身体が悪いのか?」

「傷が治らなくて…」
「それは良くないな。左近、幸村を医者に診せてやってくれ。」
左近は頷くと。
「左近と一緒に医者に行きましょうか。」

「医者には診てもらっているのです。薬も貰いましたし…湯治を勧められて。身体が疲れているから傷が治らないのだと言われました。」
幸村の言葉に三成が両腕を組んで。
「それならば、酒でも飲みながら募る話でもしようと思ったが、今宵は早く寝て、明日から湯治に行くがいい。」
「ありがとうございます。」
「もうすぐ仕事も終わる。終わったら茶でも飲みながら少し話をしようか。それまで左近、お前が話相手をしてやってくれ。」


別部屋に案内されて、幸村は左近と話をしながら三成を待つ事になり。
左近は何か悩んでいるようだった。
幸村は思いきって聞いてみる。

「憂う事でもあるのですか?」
「ええ…実は…でも幸村に言ったら軽蔑するでしょ…」
「いいえ。左近殿が悩むなんて余程の事です。軽蔑なんてしません。」

左近はフゥと息を吐くと。
「実はね…恋する人を宿に待たせたままなんですよ。」
「恋する方ですか…」
「俺はその人と共に暮らしたい。でも…世間体ってもんがあるでしょ…」

幸村は思った。このまま宿にその人を待たせていたら可哀相だと。
「きっとその方は左近殿を待っておいでです。左近殿も慕っておられるなら、共に暮らしたら良いのかと。」
左近は言いにくそうに。
「その相手って伏犠さん…なんですがね。」
「ええっ?伏犠殿ですか…」

「仙人でそれでいて男で…俺は伏犠さんに求められた時に答えてしまった。身体でね。ねぇ…幸村は知っていましたね…俺が殿に想いを寄せていたって…」
「あの…そ、それは…」
「でもね。殿は幸村しか見ていませんよ。気がつきませんでしたか?」
「三成殿が私を???」

「殿の想い…真剣に考えてやってくれませんかね。断るなら断る。受け入れるなら受け入れる。中途半端にしちゃ殿が可哀相だ。ずっと長くアンタだけを見てきたんだから。」
「左近殿…」


想いを寄せていたのは自分だけでは無かった。
三成も自分に想いを寄せているようなのだ。
ただ、三成は親切にはしてくれるけれど、そのようなそぶりは一切見せなくて。

しばらく左近と茶を飲んでいると三成が部屋にやってきて。
「待たせたな。幸村。」
「いいえ。」

左近が立ち上がり。
「俺はちょっと用を思い出しましたんで、失礼します。」
三成が怪訝そうな顔で。
「帰るのか?」
「ええ。それじゃ幸村。殿を頼みましたぜ。」

左近は部屋を出て行ってしまった。
三成と二人きりになってしまった幸村。

何だか恥ずかしくて顔を見ることが出来ない。
幸村は俯いて茶を啜りながら、三成に向かって。
「仕事の方はどうですか?」

三成は湯飲みに手をかけ。
「ああ、この荒れた地を人の住めるようにな。遠呂智が荒らしてくれたお陰で佐和山周辺も大変だ。」
俯く幸村の顔を見て。
「どうした?幸村。」
「三成殿…その…私は…」
「何がいいたいのだ?」

顔を覗き込んでくる三成に幸村はやっとの想いで顔を上げて正面から三成を見つめ。
「お、お慕い申し上げておりますっ。」
「な…何をいきなりっ。」
「昔からっ…三成殿の事をっ…それが私の答えです。」

三成は眉を寄せて。
「さては左近に何か吹き込まれたな。」
真っ赤になって再び俯く幸村に三成は。
「俺もお前を好ましく思っている。ただ…それだけの事だ。」
「それだけの事とは…」

「友として又、佐和山に訪ねてきてくれるといい。」
「三成殿の想いとは友としての想いなのですか…?」

三成は答えなかった。
幸村は無性に悲しくなり。
「私は帰ります。」
「もう帰るのか?」

「ええ…帰るといったら帰るんです。」

何を自分は期待していたのだろう…

湯治に来た目的も忘れて、幸村は馬を引っ張ってくると飛び乗り、逃げるように佐和山を後にした。
真田の屋敷に戻ると、その翌日から、屋敷に引きこもり寝込んでしまう幸村であった。


それからの幸村は屋敷に引きこもって、時々、身体を慣らす為に起きる以外は、静かに暮らしていて。
身体の傷は大分癒えたのだが、心の傷が癒えなくて…


そんなとある日の夜の事だった。
珍しい客が幸村を訪ねてきた。
頭からすっぽりと布を被り、顔を見えないようにした客人が籠から下りて。
馬で付き添っていた白銀の髪の男、太公望が籠から下りた男に向かって。
「陽が昇る前に迎えに来よう。」
「宜しくお願いします。太公望殿。」

訪ねてきた客を出迎えて驚いた。
昔、遠呂智を倒した時に共に戦った趙雲だったからだ。

趙雲は被っていた布を脱いで懐かしそうに幸村を見つめて。
「幸村殿の屋敷が近いと聞いたので、会いたくなって…元気そうだ。」
「趙雲殿は…」

美しさが増したような…白かった肌は更に白くなり、どことなく色気を漂わせていて。
趙雲は微笑んで。
「色々あったから…私は変わってしまったであろう?」
「いえ…趙雲殿は趙雲殿です。」

幸村は趙雲を客間に通すと、茶を持ってきて趙雲に出し。
「お会い出来て嬉しいです。」
「幸村殿は好いたおなごとかおられるのか?」

いきなり聞いてきた趙雲の質問に慌てる幸村。
「いえっ…そのような…」
「島左近殿をご存じか?」
「左近殿は私と共に武田に居た、兄のような方です。」

「餅を食べさせて貰った。この間、伏犠殿と左近殿に…」
「趙雲殿…」
「私はもう、身体が…武将として二度と、槍を振るえぬ程に傷ついてしまって。でもそれでも私はあの方の傍に居たい。」
「その方を好いておられるのですね。ああ…左近殿も恋をしているとおっしゃっていました。」
「左近殿のお相手は伏犠殿であろう。共に暮らしていた。幸せそうだった…」
「左近殿は幸せそうでしたか…私は…」

胸のうちを趙雲に聞いて貰いたい。そう幸村は思って。
「心が届かなかった…好いた方は友としてしか見てくれなくて。」
「好いた方とは幸村殿も男に恋をしておられるのか?」
「石田三成殿に想いを寄せているのです。でもあの方は友としてしか見てくれない。」

趙雲は慰めるように幸村を抱き締めて。
「幸村殿の為を思って言ったのかもしれない…自分と共に歩むより、おなごを娶って共に歩む方が良いだろうと…想いを込めてもう一度、話をしてみてはどうだろうか。このままでは幸村殿は後悔するのではないのか?」
「ああっ…あの方は聡明な方です。私の為を思って…」
「私は幸村殿を応援している。」
「ありがとうございます。趙雲殿。」

しばらく趙雲と昔話をして、そして夜が明ける前に趙雲は帰って行ってしまった。
趙雲は二度と槍を振るえない身体になってしまったけれども、見送った時に相手は仙人なのだろう。共に居るその姿は幸せそうで。

もう一度、三成にぶつかってみよう。想いを正面から告げてみよう。
そう幸村は強く思って。

再び馬に乗って赤い鎧を着て佐和山に向かう幸村。
三成に目通りを願えば、又、左近が出迎えて。

「幸村…久しぶりですねぇ…」
「左近殿。今日こそ私は三成殿に想いを…この間は振られましたが、もう一度聞いて貰いたくて。」
「殿は幸村を振ったんですかっ???」

左近は困ったように。
「ずっと幸村を殿は見ていたはずです。俺と茶を飲むときは、良く幸村の心配をしているんですよ。意地っぱりですからねぇ…ちっとも自分は動かない。」
そう言いながら左近は城の執務室へ幸村を案内する。
部屋に通されれば、以前と同様、三成は仕事をしていて。

「幸村…」
「三成殿、話があります。二人きりで。宜しいですか。」

左近は襖を閉めて、部屋を出ていってくれて。

三成の正面に幸村は正座をして座るとまっすぐに三成を見つめ。

「三成殿は友として私を好きだと以前、言われた。私は違う。三成殿ともっと深く繋がりたい。友としてでは無く、恋人として。ご迷惑な事を言って居ることは承知しております。でも私の気持ちを伝えたくて。」

幸村の正面からの言葉に三成は。
「お前は妻を娶り子を為し、武将として名を上げて…それが幸せでは無いのか。俺だって幸村が欲しい。幸村と深い所で繋がりたい。しかし俺の想いがお前を武将として駄目にしてしまうのならと…」
「後悔はありません。それに私は三成殿の為にこれからは働きたい。この真田の槍を三成殿を守る為に振るいたい。」

「俺の所へ嫁いで来ぬか?幸村…」
「ご迷惑でなければ…」

三成が強く抱き締めてくれた。
その温もりを瞼を瞑って幸せに感じる幸村。

やっと想いが届いたそんな気がして。

ふいに目眩を感じ、畳に倒れる幸村。
心配そうに覗き込む三成に、幸村は。

「安堵したら、急に気分が…久しぶりに馬に乗った物ですから…」
「だったら布団を敷かせるから、そこで横になるといい。」
「ありがとうございます。」

夜着を貸して貰い、城の客間で横にならせて貰えば、三成が布団の横に座って。
「嫁いでくるのなら、盛大に…披露の宴を開こう。」
「私は男ですっ…いくらなんでも…披露の宴など開かなくても…」
「俺はお前が男だからと、肩身の狭い思いをさせるつもりはない。当日は白無垢を羽織り馬に乗り、佐和山の民に幸村を披露しながら、この城へ嫁いでくるがいい。今から楽しみだ。」

とんでもない事になったと思ったのだが、愛しい人がそれだけ自分の事を大切に思ってくれるのが嬉しくて…

幸村は三成に手を伸ばし。
「手を握り締めてくれませんか…」
「ああ…いくらでも握り締めてやる。少し眠るが良い。」
「ありがとうございます…」
これからどうなるのか…不安と期待を抱えながら、
眠気が襲ってきたので、眠りにつく幸村であった。

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