幸村×趙雲 お話2

□赤い糸3
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趙雲と一緒に真田の屋敷で暮らすようになった幸村。
趙雲自身は力が弱って足が思うように歩けないのと、人が怖いのか屋敷に閉じこもって外に出たがらなかった。
幸村はそんな趙雲を大切にして、水が好きな趙雲の為に庭の桶に井戸水を汲んで、毎日水浴びもさせてあげて、愛情を沢山注いであげた。
そういう幸村の気持ちが嬉しいのか趙雲は幸村に良く甘えた。

そんなある日の午後、三成が左近を伴って幸村を訪ねてきた。
幸村は喜んで、客間に二人を出迎える。

「久しぶりです。三成殿、左近殿。」
三成が出された茶を啜ってから。
「久しぶりだな。左近を騙すのに力を貸して貰って以来か?」

幸村が左近に頭を下げる。
「左近殿には申し訳なく…」
左近は慌てて。
「いや、かまいませんよ。殿と幸せにやっていますしね。」
三成はニヤリと笑って。
「お前の力もあって左近は俺の女だ。俺のマラに泣いて喜んでくれているぞ。」

真っ赤になって俯く左近。
幸村は三成に。
「それは良かったですが…今日は何か用があって来たのですか?」
「龍神を見に来た。」

幸村は慌てて左近の顔を見る。
左近は頭を幸村に下げて。
「口が軽い男だと軽蔑しないで下さいよ…殿に無理矢理…申し訳ないっ。」
「いえ…左近殿のお陰で私は赤い糸を結ぶ事が出来たのです。無理矢理なら仕方が無いですし、三成殿なら私の気持ち、解って下さるでしょう。」
三成は幸村に。
「龍神に危害を加えにきた訳ではない。ただ秀吉様や龍神の噂を聞いた者達が探している。気をつけた方が良いだろう。俺も秀吉様に龍神探しを命じられているが、幸村が大切にしている龍神を差し出すつもりはない。」

幸村は三成に頭を下げて。
「ありがとうございます。三成殿。私は左近殿のお陰で、龍神と縁を結ぶ事が出来ました。今、共に暮らしております。でも人を恐れていて…水浴びをする以外は部屋から出ることもせず…」
「そうか。無理に会いたいとは言わぬ。」
「申し訳ございません。」

幸村は三成に。
「今日はこちらにお泊まりになってからお帰り下さい。久しぶりなので積もる話もしたいですし…」
「ああ、そうだな。そうしようか。左近。」
「ええ。宜しくお願いしますぜ。」

それから客間で幸村は三成や左近と酒を飲みながら積もる話をした。
しばらく話をした後に、日も暮れてきたので灯りを灯して、二人に夕食を出してから、幸村は趙雲の様子を見に行った。
共に夕食を取らないと趙雲が寂しがると三成達には言ってあるので、しばらく席を外させて貰う事にして。
趙雲は暗い部屋の中で幸村を待っていた。
「客が来ているのか?」
灯りを点けながら幸村は安心するように。
「私の友の三成殿と左近殿です。左近殿は会った事があるでしょう?」
「ああ…あの水浴びをしている時に訪ねて来た…」

「だから安心して下さい。貴方に危害は加えませんから…」

幸村は趙雲を抱き締めた。
趙雲は安堵したように幸村に身を預ける。
秀吉や他の者達が龍神を捜しているという事は合えて言わなかった。
趙雲を怖がらせるだけだろう。

趙雲の背を優しく撫でながら幸村は。
「一緒に食事をしましょう。食事をしたら私は三成殿達と話があるので、戻らねばなりませんが。」
「私の事はかまわない。せっかくの友なのだろう?存分に話をしてくるがいい。」
「貴方が一人で食事をしたら寂しいでしょう。大丈夫ですから…」

幸村は趙雲と共に使用人に膳を運ばせて食事をした。
「秋も深まって寒くなって来ました。趙雲殿はまだ水浴びをして大丈夫なのですか?」
玄米飯を口に運びながら幸村が尋ねれば、趙雲は微笑んで。
「水は私の命だ。真冬の冷たい水浴びだって気持ちがいい…」
「でも寒いでしょう?」
「幸村殿の傍で暮らすようになってから、温もりを感じたくなった。水で冷えた身体を幸村殿に暖めて貰いたくて…私も弱くなったものだな…」
「いくらでも暖めてあげますから…趙雲殿が望むならいくらでも…」

その時、使用人が廊下で。
「幸村様、客人がお見えですが…加藤清正様とかおっしゃる御仁で。」
「加藤清正殿?」

心配そうに幸村を見つめる趙雲に向かって。
「大丈夫ですから…趙雲殿はそのまま食事を…」

松明を使用人に持たせて、門へ出て応対すれば、10人ばかりの兵を連れた加藤清正が立っていて。
「俺は秀吉様の配下、加藤清正と言う。真田幸村殿とお見受けする。そちらの屋敷に龍神が居ると聞き、貰い受けに来た。」
「龍神等…そのような者はおりません。何かのお間違えでは。」
「調べはついているのだ。秀吉様が御所望だ。渡さぬと言うのなら力づくて貰い受けるまで。」

「相変わらずだな。清正。」
「三成っ。」

三成が左近を伴って現れた。
「チッ。先を越されたか。」
舌打ちする清正に三成は。
「出来が違うのだよ。といいたい所だが、ここには龍神はおらぬ。」
「何だと?確かな情報なのだがな。」
「偽情報なのだろう。」

左近が背後から清正に。
「龍神なんて居たら、うちの殿がとっくに捕まえて差し出してますぜ。さぞかし褒美が貰えるのでしょ。俺もお裾分けにあやかりたい物ですな。」

清正は三成に。
「出直してこよう。邪魔したな。」
そう言うと馬に乗り、兵達と共に去って行った。

幸村は三成に。
「庇って頂いて申し訳ありませんっ。」
「しかし、どこかで漏れたかしれぬが、ここも危険だな。」
「趙雲殿を他に隠します。」

「佐和山に来るがいい。」
「三成殿っ?それでは迷惑がかかります。」
「俺や左近なら、大丈夫だ。よいな。」

幸村は趙雲を馬に乗せて、夜のうちに三成と左近と共に、佐和山の城に向かう事にした。
趙雲は夜中に幸村の前に馬に乗せられながらも震えていた。
幸村は趙雲を安心させるように。
「もっと安全な場所に移るだけですから…」
趙雲は必死に頷く。

幸村達の前を馬を進めながら三成は。
「俺の名は石田三成だ。悪いようにはせぬ。これから俺の城にお前を連れて行く。幸村も一緒だ。安心するがいい。」
左近は何も言葉をかけてはこない。

佐和山の城に着いた頃には夜が明けて、幸村と趙雲は客間に通される。
出された茶を飲みながら幸村と趙雲は身を休めていたが、幸村は立ち上がって三成を捜そうと廊下に出ると、部屋の中から三成と左近の言い争う声が聞こえてきた。

左近が三成に。
「どういうつもりなんです?龍神さんをここで匿うだなんて…秀吉様に知れたら大変な事になりますぜ。」
「左近。俺は龍神に興味があるのだ。」
「殿…」

「神の力に縋ってでも戦に勝ちたい。豊臣の力をより盤石にする為にも…皆が笑って暮らせる世を作るためにも。だから俺は…」
「だったら龍神を秀吉様に渡せば…いえ…それは出来ませんよね。幸村が大切に思っている龍神さんを差し出す事なんて…」

「だから俺は龍神を説得して、力があるならばその力を借りたい。」
「殿は説得をするつもりで?ばれたら幸村の為に秀吉様を…天下の為には龍神さんを…」

幸村はたまらなくなって部屋の襖を開けて三成に。
「趙雲殿は力を失ってしまって…私が精を注いだから…龍神の力なんてもう…どうか…お願いです。そっとしておいて下さい。私と趙雲殿はただ共に居たいだけなのです。」
「幸村。俺は…天下の為に、秀吉様の為にあきらめきれぬのだ。龍は天を操る力を持つと聞く。その力、豊臣の為に使っては貰えぬだろうか。」

「趙雲殿を山に返しますっ。」

幸村は背を向けると、客間の趙雲の元へ急ぎ戻って。
「趙雲殿、ここを出ましょう。」

「そうはさせぬぞ。」
三成はそう言うと、兵に命じて二人を捕らえさせる。
得物も持っていない幸村はあっけなく捕まってしまって。

座敷牢に二人を入れると三成は幸村に。

「龍神を説得してくれ。そうすればここから出してやる。」
「三成殿っ。」

そう言うと三成は行ってしまって。
左近が残っていたので、幸村は左近に懇願する。

「左近殿。ここから出して下さいっ。」
「俺は…殿の女です。逆らうことが出来ないんですよ…でも幸村や龍神さんを閉じこめる事は反対です。出来るだけの進言はしてみますんで…」

趙雲は幸村に身を寄せて震えていて。

「私達はどうなるのだ?怖い…」

幸村は趙雲の身を抱き寄せて。
「三成殿は三成殿で豊臣の事、天下の事を真剣に考えているのです。その気持ち、私には良く解る。でも…その為に趙雲殿の力を使おうだなんて…」
「私には力はもう無いのだ。幸村殿の傍に居たいだけなのに。」

涙を零す趙雲に幸村は。
「私がついていますから…いつでも私が…」
「抱いてくれないか?」
「趙雲殿…」

「お願いだから抱いて…私を安心させて…」
趙雲が幸村に口づけをしてきた。
幸村は優しく趙雲に口づけをする。

しかしそれ以上の事が出来なかった。
幸村は趙雲を抱き締めると、涙を流して。

「必ずここから出してあげますから…山に趙雲殿を連れて帰ってあげますから。」
「幸村殿、もう傍には居てくれぬのか?」

「人の世はあまりにも趙雲殿には辛すぎる。一人で寂しいと言うのなら、私も共に山に参りましょう。」

趙雲は幸村から身を離して正座をした。

「真田幸村殿。志を捨ててはいけない。私の為に幸村殿の武将としての生を終わらせる訳には。やはり龍神と人とは共に居ると不幸になる運命なのか。」

幸村は答えることが出来なかった。


座敷牢の窓から雨が降ってきたのが見えた。
二人の不安な心を現すかのように、シトシトと悲しげに降り続くのであった。
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