幸村×趙雲 お話

□赤い月2
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「趙雲殿。起きて下さい。食事を持ってきました。」

趙雲は幸村の声で目が覚めた。

目を開けてみれば幸村がいつもの赤の鎧を着て、邪気のない笑顔で自分の顔を覗き込んでいる。

「ああ…幸村殿…」

身を起こそうとして両手の自由が利かぬ事に気が付いた。手首に木の手枷が着けられていて、自分は横向きに白の夜着を着せられて布団の上に横たわっていたのだ。

と同時に身を動かせば身体の奥が…恥ずかしい所が鋭く痛むのに趙雲はうめき声を上げて。

幸村は趙雲の身体をゆっくりと抱え起こしながら。

「夕べは私も夢中で。乱暴な事をしてしまいました。お許し下さい。」

「では…手枷を外して貰えぬか?手首が痛くてたまらない。」

幸村の腕の中で趙雲が頼めば。

「そう言うわけには参りません。手枷を外したら逃げるでしょう。趙雲殿は強いですから。ああでも牢の中だから逃げられませんか…」

外は天気が良いらしく日の光が高い天窓から輝いて見える。

しかし、幸村の背後を見れば木の格子で仕切られた牢の中らしく、趙雲はため息をついた。

幸村は趙雲に向かって握り飯を差し出して。

「これならば、手枷を着けていても食べれるでしょう。水も…」

木の水筒を手に取り。

「飲みやすいように水筒に入れて参りました。」

「気分が悪いのだ…もう少し寝かせてくれぬか…」

そう言うと趙雲は再び身を横たえた。

幸村は悲しそうに。

「食べねば体力が落ちてしまいます。」

「私はここからもう…出しては貰えぬのか?」

趙雲の静かな問いに幸村は頷いて。

「ここから出したら二度と会うことは叶わぬでしょう。今回の事で愛想を尽かした…私の事を嫌いになったでしょうから。だから出してあげる訳には行かぬのです。傍に居て欲しい。私は趙雲殿が好きです。」

「私も幸村殿の事が好きだ…だからここに来てしまった。一日だけと言いつつ身体を許してしまった…でも私は劉備殿の元に帰らねば。」

「嫌です。私と共にここで暮らしましょう。大切にしますから。」

趙雲は瞼を瞑って。

「私を手放したくなかったら、閉じこめておけばいい…幸村殿がここから出してくれぬ限り戻る事は出来ぬのだから。」

「食べて下さい…私に向かって笑って下さい…私を愛して下さい…」

幸村は泣きだした。涙で濡れる目をごしごしと擦りながら。

「変ですよね。そんな事を言うなんて。憎まれる事を覚悟で趙雲殿を閉じこめているのに。」

趙雲は瞼を開けて幸村を見つめ。

「泣かないでくれないか…幸村殿が泣くのを見るのは辛いから。まるで駄々っ子だな…」

「趙雲殿。」

「知らなかった。幸村殿にこんな一面があるだなんて。人は誰しもいい人だけでは居られない。手枷を外してくれたら食べるから…外したからって牢の中では逃げられぬのだろう?」

幸村は目を擦って涙を拭ってから手枷を外してやる。

趙雲は手枷のせいで赤くなった手首をさすって。そして幸村の身体を引き寄せてぎゅぅっ抱き締めた。

「嫌っても憎んでも居ないから…幸村殿が満足するまで閉じこめてくれたってかまわない。」

「趙雲殿…」

趙雲は幸村の顔を見つめその顎に手を這わせ、そっと唇に口づけをした。

幸村は瞼を瞑ってその口づけに答える。

そして再び幸村の身体を抱き締めて瞼を瞑り。

「温かい…幸村殿の身体は温かいな。こんな行動を幸村殿に取らせてしまった私を許して欲しい。
武将としての生き方を捨てられない私を…私が幸村殿の伴侶になる事を承知していればこんな事にならなかっただろうに。今日は天気もいい。日の当たる外で二人で手を繋いで歩く事も、馬に乗って風を感じる事も出来たかもしれぬのに。」

「武将としての生き方を捨てられないからこそ趙雲殿なのに。貴方が謝ることはないのです。私が悪いのですから。」

そう言うと幸村は趙雲の身体から離れて。背を向けて床に座り。

「私は赤い月なのです。我が儘で欲しい物なら欲望のままに手に入れる赤い月。自分勝手でどうしよもなくて。でもそんな本性を押さえて生きてきました。でなければ生きる事など出来ないでしょう。三成殿を知っていますか?」

「戦場で一度…私を幸村殿と似ていると…」

「私と趙雲殿は似ていませんよ。三成殿は左近殿を強引に手に入れたんです。妻にして全てを縛り付けて。うらやましかった。だってそうでしょう。好きな人を伴侶にしただけでなくて、その全てを縛り付けて…私も趙雲殿をそうしたかった。」

趙雲は握り飯を手にして一口、口に入れた。水筒の水をゴクゴクと飲んで。

あっけに取られたような幸村に向かって趙雲はにっこり笑って。

「腹が減りました。なんせ夕餉から何も口にしてはいなかったので。」

幸村は慌てたように皿を差し出して。

「こちらに野菜と漬け物も用意してあります。趙雲殿。大切にしますから…一生大切にしますから。」

趙雲は深く頷いて、野菜と漬け物を幸村から箸を受け取って食べるのであった。
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