幸村×趙雲 お話

□赤い月9
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湯治から帰ってきた幸村と趙雲。
真田の屋敷で暮らしている趙雲は、座敷牢から出して貰い夫婦らしい生活をするようになってから毎朝、庭での鍛錬をかかさなかった。
どんなに伽で疲れていようが、槍を振るい、馬に乗り必ず朝駆けをし。
今にも戦に出ようかというような勢いで。
幸村が信玄に呼ばれて仕事で出かけると、必ず武装をして着いてきた。
そう、幸村を守るかのように。

ある日、見かねた幸村が朝の鍛錬をする趙雲に向かって。

「趙雲殿…無理なさらずに。私と共に鍛錬すれば宜しいではないですか?今の貴方はまるで何かに駆り立てられるかのように。貴方は私の妻になったのですから。」
槍を振るい庭に立ててある棒を次々となぎ倒しながら、趙雲は。
「ハァハァ。余計な気遣いは無用。幸村殿の妻だからこそ守ってやりたい。あの男から。私は前田慶次を許しはしない。」
「これでは貴方が倒れてしまいます。私は大丈夫ですから。もう油断はしませんし…」

趙雲は槍を地に置くと、幸村に近寄ってぐっとその身を抱き締める。
幸村も趙雲の背を抱き締めながら、その背を愛しげに撫でて。
「そんなにも私の事を心配してくれて。私は良き妻を持って幸せです。」
「心配なのだ…幸村殿を苦しめる者…幸村殿を傷つける者を私は…」
「趙雲殿。」
幸村は趙雲の顔を優しく見つめながら。
「それは私も同じ気持ちなのです。趙雲殿を守ってあげたい。私は貴方を娶ったのですから。」

趙雲は視線を逸らすと幸村から離れて、置いた槍を拾い、縁側へと進み腰掛けて、ため息をつくとぽつりと呟く。
「危うい幸村殿…まるで弟のような愛しい幸村殿…それを包み込んで諭してあげるのが私の役目なのに。今では私の方が頼り切って…」
趙雲の隣に幸村は腰掛けながら。
「少しは私も成長したという事なのでしょうか。でも危ういのは今でも危ういままです。私は歪んだ赤い月…赤い月のままですから。」
趙雲は幸村の手を握り締めて、瞼を瞑り辛そうに。
「私は…幸村殿の事が好きで好きでたまらない。この心が引き裂かれそうに…胸が痛くて苦しくて。」
「趙雲殿っ。」
幸村は趙雲をぐっと強く抱き寄せて。
「ああ、こんな熱い言葉を聞けるだなんて…私のような者をこんなに熱く愛して頂けるなんて…なんて私は幸せ者なのでしょう。」
「私の想いは、重くは無いだろうか?自分でも、どうしたらよいか解らぬこの心…今まで劉備殿の御為に、民が幸せに暮らせる世の為に働く事しか考えた事が無かった。私は恋という物をした事が無かった。このように身を焦がし心を苦しめる物だとは思わなかった。」
幸村は趙雲の辛そうな言葉に。
「私も想いは同じです。だから貴方を無理矢理犯して、牢に閉じこめて我が者とした。」
「幸村殿…」
「だから、重いと思わなくても良いのです。互いを深く思っていると言うことは幸せではないですか?これからもこの想い大切にして行きましょう。」
「ああ…嬉しい事を言ってくれる。私はなんて幸せ者なんだろう。」

くのいちが茶を持って来てくれたので、二人は慌てて身を離して、縁側で茶を飲む。
幸村が茶を飲んでから。
「ただ、私は謝らなくてはなりません。貴方の名を汚してしまったのですから。今や私の妻としての噂は広まってしまって…劉備殿や諸葛亮殿もあきれていることでしょう。三国の英雄を…真田幸村の妻だなんて…男なのに妻という…名を汚してしまったのですから。」
趙雲は茶を一口飲んで。
「後悔はない。この名が地に落ちようとも幸村殿の妻になれた事を後悔してはいない。今の私は今まで生きてきて一番幸せなのだ。傍に好きな幸村殿が居てくれるのだから。」

幸村は赤くなって。
「趙雲殿…朝湯に入りましょう。汗を掻いたでしょうから。背を流して差し上げます。」
「ありがとう。幸村殿。そうさせてもらおうか。」
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