幸村×趙雲 お話

□赤い月10
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月の明るい夜、二人は夜着を着て趙雲が幸村に膝枕をし、夫婦らしい時間を過ごしていた。
ゆらゆらと蝋燭の灯りが揺れる下、布団の上で趙雲は愛しげに耳かきで幸村の耳掃除をしてやれば、気持ちよさそうに幸村は瞼を瞑り、趙雲に甘えきったように頬をすり寄せて。

趙雲は目を細めながら。
「耳の中が綺麗になりましたぞ。それにしても幸村殿は耳掃除をされるのが好きみたいで…」
幸村は身を起こして。
「趙雲殿が上手だからいけないのです。だからつい望んでしまって。」
「このような事でよければいつでもしてあげよう。」
「嬉しいです。趙雲殿。」

顔を輝かせて喜んでいた幸村がふと表情を曇らせて。
「危急の用向きみたいです。」
起きあがり、障子を開けて廊下を出れば、忍びが一人控えており、幸村に何やら耳打ちをする。
幸村は頷いて。再び障子を閉め、部屋に戻ってくると、趙雲はただならぬ様子に心配そうに幸村に尋ねて。
「何かあったのか?」

「左近殿が呉に連れ去れたとの事…三成殿から力になって欲しいと言ってくるかもしれません。」
「それは大変だ。助けに行かなくては。この趙子龍。いつでもこの槍で力になると三成殿にお伝え願いたい。」
「駄目です…」

幸村の言葉に目を見開く趙雲。
「駄目とはどういう事だ?」
「駄目です。」

ゆらりと幸村の纏う気が歪んだ。そんな気がして。

幸村は趙雲に近づくと、フっと笑みを口元に浮かべて。
「隙を作った三成殿がいけないのです。ああ…やはり愛しい人は閉じこめておかねば安心できませんね。貴方を牢から出した事は間違いだった…牢に戻ってくれませんか?趙雲殿。」
「嫌だ。安心出来ぬのは私とて同じ。私より幸村殿の方が危険なのではないか?慶次殿に一度、連れ去られたのだ。私が守らなくては。愛しい幸村殿の身を私が…」
「籠もりましょうか…1年や2年、私自身、外に出なくても生きていけます。そうすれば慶次殿も諦めるでしょう。座敷牢の中で貴方を可愛がってあげます。私だけの物にして…もう、誰にも触れさせない。誰にも渡しはしない。」

趙雲は幸村の手を両手で握り締め叫んだ。
「私は強い。左近殿のようにさらわれたりはしない。だから牢に閉じこめないで欲しい。」
「左近殿とて強かった…でも、さらわれてしまったでしょう?」
「夫婦らしい時を過ごしたい。幸村殿と馬を走らせて風を感じて…解ってくれぬのか?」

幸村は趙雲をまっすぐに見つめる。その瞳から涙が一筋こぼれて。
「許して下さい。こうでもしないともう、不安で私は…」

趙雲は立ち上がった。
幸村に向かって。
「牢に…案内してくれないか…今宵から私はそこで過ごすことにする。一緒に籠もって過ごそう…それで幸村殿が幸せなら、安心するのなら。」
「嬉しいです。趙雲殿…では参りましょう。」


趙雲が再び閉じこめられた座敷牢は、以前、閉じこめられていた牢と同じ牢で。
高い所に取り付けられている小窓からは、月の光が差し込んで中を照らし。

幸村が布団を運び込み、一つの布団を畳の上に敷いて。
「さぁ共に眠りましょう。家臣達には良く言い聞かせてあります。蓄えは2年位はありますから、戦に巻き込まれない限りはここでゆっくりと暮らせます。」
「幸村殿…さぁ傍に…」
趙雲が布団に横たわり、中に入ってきた幸村を抱き締める。
その髪をやさしく指先で撫でながら。
「これで安心であろう…私は傍に居るから。胸に手を当ててみるがいい。私の胸の鼓動を感じないか?」
幸村が趙雲の夜着のはだけられた胸に手を当てて、瞼を瞑りながら。
「ああ、感じます。趙雲殿の胸の鼓動が。温かい…ああ…とても温かい。」
「この胸の鼓動が止まるまで、幸村殿の傍に…約束しよう。」
「嫌です。あの世に行っても私は傍に居ます。」
趙雲はふと微笑んで。
「本当に私の事が好きなのだな。幸村殿は…」
「子が欲しいです…やはり貴方との子が欲しい。」

趙雲の腹に手を当てて、優しく撫でる幸村。
趙雲は困ったように。
「おなごだったら、作ってやれたのだが…仙界の薬を使ってまで、子を作りたいとは思えぬ。」
「貴方は私の事が嫌いなのですか?好きな相手の子が欲しいと思うのは当然だと思うのですが。」
趙雲は幸村の頬に手をやり、諭すように。
「こうして幸村殿の妻になり、牢に閉じこめられても、私の本質は男なのだ。槍を振るいたい。天下の為に働きたい…もう、叶う事は出来ない望みでも私の心の底でその炎が燃えているのだ。」
「私に犯されて、おなごのように抱かれていてもですか?」
「幸村殿は私が私で無くなる事を望んでいるのか?」
「趙雲殿でなくなるとは…?」

趙雲は頷いて。
「子を為すという事は、趙子龍の最後の砦を崩してしまう事になる。解って欲しい。私はまだ、男で居たいのだ。幸村殿の精を受けておなごのように扱われようとも…」
幸村は納得したように。
「解りました。貴方が貴方で無くなるのは私とて耐えられません。子は諦めます。ああ、月の光が綺麗ですね。今宵はあの月を愛でながら寝ましょうか。」


趙雲と幸村は抱き締めあってそのまま眠りについた。
そんな二人を月の光が優しく照らしていた。
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