幸村×趙雲 お話

□赤い月11
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趙雲は夜着姿のまま豪竜胆を手に、鎧姿だが武器も持ち出せなかった幸村を背に乗せて馬に乗っていて。夜通し走って疲れた馬を歩かせる。夜も明け朝日が昇って来て。
趙雲は背の幸村に向かって。
「これからどこに行こうか。金も持っておらずそのまま飛び出てしまったのだから、誰かを頼らなくては…」
幸村は趙雲を後ろから抱き締め、ぎゅっと掴まりながら。
「三成殿にお金を借りましょう。今はそれ所では無いかもしれませんが。」

佐和山の城に馬を向かわせ、趙雲と幸村は三成に面会を求めると、すんなりと通して貰えて。
三成の様子はいつもと変わらなかった。左近がさらわれたというのに、黙々と仕事をしていたようで。
仕事の手を止めると二人に向かって。
「預かり物をしている。くのいちからだ。」
三成が手を叩くと、三成の家来が幸村の武器、炎槍索戔鳴と趙雲の鎧一式を持ってきて、二人の前に置く。
後、金が入っているのであろう。ずっしりと重いその袋を幸村の前に置いて、家来は下がり。
三成は幸村に向かって。
「兄君、信幸殿から伝言を言付かっている。一年位、旅をして世間を見、その身を磨いてくるように。との事だ。一年経ったら真田の屋敷に趙雲殿と戻るようにと。」
「兄上が…」
驚く幸村に向かって趙雲がその肩に手を置き。
「いい兄上では無いか…。幸村殿の事を心配している。」
「ああ…こんな歪んだ私でも兄は思っていてくれるのですね。」

幸村は俯いて泣きだした。
趙雲が布を取りだし、幸村の涙を優しく拭いてやり。

ふと三成に対して、左近の事が気になったので趙雲は聞いてみる。
「三成殿…左近殿がさらわれたと聞きました。助けに行かずに宜しいのですか?」
三成はため息をついて。
「動けぬのだよ。俺が動けば呉と波風が立つ。秀吉様が許してはくれなくてな。今、呉と事を起こす訳にはいかぬのだ…」
「それでいいのですか?左近殿は三成殿の伴侶ではござらぬか。それをさらわれて泣き寝入りしなくてはならないとは。」
趙雲の言葉に三成は拳を握り締め。
「俺とて左近を迎えに行きたい。あの孫策から左近を取り戻したい。しかし俺はこの城の主なのだ。どれだけ悔しいか解るか?趙雲殿。」
二人のやりとりを黙って聞いていた幸村。

「様子を見に行ってきましょう。私と趙雲殿が…」
幸村の言葉に意外だとばかり二人は視線を向けて。
赤い歪んだ月の幸村。
わざわざ危険な場所に趙雲と一緒に赴くとは考えられなくて。

三成が口を開く。
「危険なのだぞ…左近をさらう連中だ。」
「しかし、話の解らぬ連中では無いでしょう。客将として滞在させて貰います。その間に様子を見てきます。」
趙雲も。
「幸村殿がそう言うのなら、私も行こうと思う。左近殿が心配だ。」

三成は頷いて。
「二人がそう言ってくれるのなら、宜しく頼む。」
二人に向かって三成は深々と頭を下げた。
驚く趙雲と幸村。

「左近が幸せに暮らしているのなら、そのままでかまわぬ。どちらにしろ連れて帰る事は出来ぬであろうから、様子だけでも見てきて欲しい。俺は左近が心配なのだ。」
趙雲が三成に近づいてその手を握り締め。
「頭を上げて下さい。必ず様子をお伝えしますから…」
幸村も三成に向かって。
「私も頑張りますので。報告を待っていて下さい。」
三成は身を震わせ俯いたまま涙を流し。
「すまぬ…すまぬな…」
余程、左近の事が心配なのだろう。

身支度を調え、佐和山の城を後に呉に向かう趙雲と幸村。
くのいちが馬も連れてきてくれたので、互いに一頭ずつの馬に乗って。
趙雲が幸村に聞いた。
「何故、呉に行こうと思ったのだ?幸村殿らしくない。」
幸村は笑って。
「趙雲殿と閉じこもる事が出来ない今…兄上のお気持ちも解りましたし…少しでも三成殿や左近殿の役に立てたらと。三成殿には世話になりました。左近殿もいい人なのです。二人の友情に答えたい。赤い月の私が言うのは変ですか?」
「いや…人として当然の事だ。私は幸村殿の気持ち、嬉しく思う。」
「ただ、趙雲殿の身に危険が及ぶかもしれません。それだけが心配で。私が命をかけてお守り致しますが。」
趙雲は力強い言葉で。
「私は男だ。自分の身は守れる。さぁ建業へと向かう船が出る国の境までもう少しだ。急ごう。」
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