幸村×趙雲 お話

□赤い月12
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二人は建業の都に船から下りれば、船着き場で兵士達が警戒しているのか、すぐに趙雲や幸村は腕を掴まれ問い詰められる。
「この武器は何だ?怪しい奴め。」
確かに趙雲の武器、豪竜胆や幸村の炎槍索戔鳴は目立って仕方がないであろう。
趙雲は兵士に向かって。
「我が名は趙雲、字は子龍。そちらの御仁は真田幸村。名は聞いたことがあろう?孫策殿に会わせて貰いたいのだが。」
今の呉は孫堅は引退をし、孫策が後を次いで主君となっていたのだ。
兵士は驚いて。
「趙雲といや、あの劉備の所の。真田幸村も聞いたことがあるぞ。それにしても…えらいべっぴんさん達だなぁ。」
他の兵士も二人をじろじろと見て。
「ほんに、えらい美人さん方だ。」
幸村が少し不機嫌に。
「美人さんは余計です。孫策殿に会わせて貰えないでしょうか。」
兵士が頷いて。
「武器は預からせて貰う。太史慈将軍の所にまずは連れて行こう。そこから孫策様に会わせて貰うがいい。」

二人は太史慈の館に連れていかれた。
太史慈は趙雲と幸村を見て驚いたように。
「噂に違わぬべっぴんさん達だな。失礼。俺の名は太史慈。字は子義という。呉に何をしに来られた?」
卓を囲う椅子に二人は座り。太史慈は家の者に茶を持ってくるように促して。
幸村が。
「孫策殿に会わせて欲しいのです。しばらく客将としてお役に立てたら。っていうのは建前で、左近殿の様子を見にまいりました。三成殿は心配しております。」
趙雲も。
「左近殿は私達に取っても大切な友。それがある日こちらに突然連れ去られたと聞き、心配せずにはおられましょうか。」

太史慈はため息をついて。
「左近殿は帰りたがっておられる。三成殿の所へ。殿が離さなくてな…俺も気の毒に思っているのだ。いくら殿の為とはいえ、このような事をしていいはずがない。」
趙雲が。
「孫策殿のお気持ち、変える事は出来ない物だろうか?」
太史慈は腕組みをして。
「無理であろう。今日は殿は用で出かけて夜にしか戻らない。ここに泊まって頂き明日、殿の所へお連れしよう。宜しいかな?」
趙雲も幸村も頭を下げて。
「宜しくお願い致します。」

太史慈も仕事があるとの事で出かけてしまい、屋敷の庭に出て二人は花を眺めていれば、13歳位の少女であろうか?
一人の少女が走ってきて、白い花を趙雲に向かって一輪差し出し。
「これ、あげる。」
趙雲は表情を緩め微笑みながら受け取って。
「ありがとう。」
幸村が少女に向かって。
「私の分はないのですか?」
少女はにっこり笑い。
「今日は白い花、一輪しか咲いてない。明日持ってきてあげる。」


走り去る少女を見つめながら趙雲が。
「太史慈殿の子であろうか?」
幸村が考えるように。
「子にしては大きいような気がしますが…早くに作られたのなら…そうだ。趙雲殿。髪につけてあげましょう。」
幸村が趙雲の貰った花を手にして、髪につけようとすれば趙雲は慌てて。
「私は女ではないのだ。」
「でも、似合いますよ。ほら…」

白い花をつけてやれば趙雲の黒髪に良く生えて。
幸村は嬉しそうに。
「ああ…本当に綺麗だ。」
「私は恥ずかしい。」
「口づけしていいですか?」
幸村が唇を近づけようとすると、趙雲は慌てて。
「人に見られる。」
「いいじゃありませんか…」

幸村の口づけを受ける趙雲。
趙雲は幸村の頬を優しく撫でながら。
「幸村殿の兄上に感謝せねばなるまいな。このようは日の光の下で幸村殿の口づけを受けられる。何て幸せなのであろう。」
「ええ。日の光の中で見る貴方はとても綺麗です。趙雲殿。」

再び幸村が口づけをしようと趙雲に顔を近づけたその時。
ガサっと音がして、さっきの少女が真っ赤な顔をしながら見つめているのに気が付いて。
手には白い花を持っていた。
幸村の為に持ってきてくれたのであろう。

幸村が趙雲から身を離し、少女に近づき、身を屈めて。
「花を持ってきてくれてありがとう。」
手を差し出せば少女はおずおずと花を差し出して。
幸村は受け取りその花の香りを嗅ぎながら。
「いい匂いがします。趙雲殿…もう一つつけてあげましょう。」

幸村は趙雲に近づき、最初につけた花の隣にもう一つ花をつけて。
趙雲は少女に向かって。
「変であろうか?男なのに。口づけをして花をつけてもらって…」
少女は首を振って。
「変じゃない…好きだったらいいと思う。小蘭も子義様好き。花つけて貰ったら嬉しい。」
趙雲は少女に近づいて、身を屈めてその顔を見つめながら。
「太史慈殿が好きなのか?」
「ウン。子義様、優しい。小蘭…子義様大好き。」

幸村が趙雲に向かって。
「随分と若い奥さんを持っているんですね。太史慈殿は。」
「可愛らしい奥方だ。孫策殿の前の奥方も若い歳だったな。周瑜殿の奥方も若かった。幼い少女が好きなのであろうか?」
「人の趣味はそれぞれですから…趙雲殿が好きだという私や、左近殿に惹かれる三成殿や孫策殿…こう考えて見ると面白く思います。」

少女は走って部屋に戻っていった。
しばらくして太史慈が仕事から戻ってきて。
「今日は早めに切り上げてきた。客人が居るのにもてなさないのもな…」
ふと趙雲の髪を飾る白い花を見つめ。
「小蘭から貰ったのか?」
「あの可愛らしい少女から貰いました。太史慈殿の奥方なのですか?」
「奥方って訳でもないが、大切な人だ。今夜は馳走をするから色々と話を聞かせてくれ。」

その夜は太史慈に馳走を振る舞われ、酒を飲みながら互いに色々な話をした。
戦の話。恋の話…
太史慈は趙雲が幸村の奥方だと聞いて。
「これだけのべっぴんさんだったら、幸村殿が惹かれるのも納得する。」
幸村はきっぱりと。
「あげませんよ。」
「安心しろ。俺には小蘭がいる。彼女がもう少し成長したら娶るつもりだ。」
趙雲が太史慈の隣で肉まんを食べている小蘭を見つめながら。
「本当に好きなんですね。小蘭殿の事が。」
「ああ。俺の宝物だ。」

太史慈が小蘭の頭を優しく撫でる様子を見て趙雲は微笑ましく思った。
ふと隣を見れば幸村が酒をしたたか飲んでいるのに。
「幸村殿。飲み過ぎなんじゃ…」
「これ位、大丈夫ですよ。呉の酒は美味いです。もっと下さいませんか?」
太史慈が笑いながら。
「この小さな杯では足りぬかな。もっと大きな杯を持ってこさせよう。」
大きな杯を幸村に渡して、たっぷりと酒を注ぎながら。
「さぁ一気に空けてくれてかまわぬぞ。」
「では。頂きます。」

幸村が酒が好きだと知ってはいたが、このように人の家で飲みまくるとは。
ぐっと煽って一気に空にして。
「趙雲殿。好きです…もうたまらなく好きです…」
そう言って趙雲の肩に手を回し、絡み出した。
頬に唇を落としたり、髪を撫でたり。
趙雲は慌てまくって、太史慈に断りを入れ。
「そろそろ失礼しますっ。」
「ああ。大分酔われているようだ。客室で休んでくれ。」
幸村の肩に肩を貸してその場を後にする。
二人に宛がわれた客室の寝台の上に幸村を降ろして寝かせて。
幸村はぱっちりと目を開き趙雲を見つめ。
「やっと二人きりになれましたね。」
「酔った振りをしていたのか?幸村殿。」
幸村は身を起こして。
「太史慈殿はいい人ですね。まっすぐで…ちょっとうらやましかった。私は曲がっていますから。」
「胸が痛んだのか?」
幸村を覗き込む趙雲。
「ええ。」
「私が傍にいるから…今宵は添い寝をしよう。」
「抱かせてくれないのですか?」
「たまにはこういう夜もいいだろう。それにしたたか飲んでいるのではないか?」
趙雲が夜着に着替えて幸村の隣に潜り込む。
幸村も夜着に着替えて趙雲の胸に顔を寄せ。
「明日は左近殿に会えるといいですね。」
「ああ。会えるであろう。さぁ寝よう。」
幸村の髪を撫でてやれば、安堵したようにすぐに寝息を立て始める幸村。

安心して眠れるのは太史慈の人柄のせいであろう。
太史慈と小蘭の幸せ。三成と左近の幸せを願い…自分と幸村のこれからを思いながら趙雲は幸村を抱き締め眠りにつくのであった。

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