幸村×趙雲 お話

□赤い月15
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「幸村、一休みしないか?」
三成に言われて幸村は書いていた文の筆を止め、顔を上げる。
ここは佐和山の三成の城の執務室。
真田の屋敷を追われた幸村と趙雲。幸村は佐和山の城に置いて貰うに当たって三成の仕事を手伝っていた。
朝は早く起きて趙雲を相手に槍の鍛錬に励む。食が済むと三成と共に執務室に籠もって仕事をしたり、領内を三成と共に見回ったり、幸村に取って毎日が忙しかった。

− だがなんと充実しているのだろう。 三成殿には感謝せねばならないな… −

三成に必要とされている事が嬉しくて…それ以上に趙雲と共に夫婦としてこの城で暮らせる事も嬉しかった。
「ありがとうございます。それでは休んで来ます。」
幸村は立ち上がると執務室の外へ出る。
そろそろ腹が減る時間帯。趙雲が昼飯を作って部屋で待っていてくれるはずで。
濃い茶の着物を着て動きやすいように絞った下履きを履いた姿の幸村は、急ぎ足で部屋に戻れば趙雲が青に龍をあしらった裾まで長い衣を着て、幸村を待っていて。
「仕事お疲れ様。今日は外で食べよう。そう思って握り飯を作っておいた。」
「いいですね。天気も良いですし。庭に出て食べましょうか。」

二人が庭に出れば、暖かな日差しが降り注いで。
木陰に腰掛けると趙雲が握り飯を幸村に差し出せば、幸村が受け取らずにっこり笑って。
「食べさせてくれませんか?」
「幸村殿は本当に甘えん坊だな。」

趙雲は幸せそうに微笑むと幸村の口元に握り飯を差し出す。幸村がぱくりと一口食べて。
モグモグと口を動かして飲み込んで。
「美味しいです。もう一口。」
「御飯粒が…」
趙雲が唇を寄せて幸村の唇の横についている御飯粒をぱくりと食べれば、幸村が顔を赤くして。

趙雲が再び握り飯を差し出せば幸村は美味そうに食べる。
握り飯を3つ程、平らげた幸村は竹筒に用意してあった茶で喉を潤して。

幸村は茶を飲みながら。
「幸せですね…毎日が充実していて…傍に趙雲殿が居る。」
「私の縫った着物はどうだ?」
趙雲の問いに幸村は嬉しそうに自らの着物を眺め。
「着やすいし、動きやすいです。」
「それは良かった。左近殿と共に仕上げたのだ。仕立てに詳しい者に教わって。」

そう言うと趙雲は幸村を正面から見つめ。
「私は幸村殿の役に立ちたい。幸村殿にもっと喜んで貰いたい。どうすればいい?」
「貴方は良くやってくれます。朝は私の槍の練習に付き合ってくれて…食事も自ら作って私の腹を満たしてくれる。こうして着物まで仕立ててくれて…夜は私の求めに可愛らしく応じてくれる。これ以上、何を望む事が…私は幸せです。今が一番…」
「幸村殿がそう言ってくれると私は嬉しい。」

二人が唇を近づけようとした時だった。
ビイイイイ〜ンと音がして二人の頭上の木の幹に一本の矢が刺さる。

趙雲が立ち上がりその矢を抜くと、ついていた文を取り、幸村と共に目を通す。

− 今宵、真田幸村を頂きに参上する。城に被害を出したくなければ外に出てくるがいい。待ってるぜ。前田慶次 −


趙雲が目を見開く。
「前田慶次っ。まだ諦めていなかったのか。」
「こちらに戻ってきたという噂は聞いていました…三成殿に迷惑を掛ける訳にも行きません。左近殿が大切な時期なのです。私は外で迎え撃ちます。」
幸村の言葉に趙雲は。
「私が幸村殿を守る。」
「趙雲殿に何かあったら心配です。私一人で迎え撃ちます。」
「それを言うなら幸村殿の方が…もし又さらわれて…この前のような事が起きたら。私は悔やんでも悔やみきれないっ。」
「趙雲殿…」

幸村は素早く趙雲の首筋に手刀を当てた。
痛みに気を失う趙雲。
趙雲の身体を担ぎ上げると、そのまま部屋に戻ってどさりと趙雲の身体を畳に転がす。
両手首を縛り上げてから、幸村は廊下に出ると通りかかった三成の家臣の者に。
「三成殿に伝えて下さい。真田幸村、急に腹が痛くなりまして、午後は休ませて下さいと。」
「解り申した。伝えておきましょう。」

幸村は部屋に戻ると、趙雲がウウンと唸りながら瞼を開ける様子が目に映って。
趙雲は幸村を見つめると叫んだ。
「縄を外してくれぬか?」
「私が一人で慶次殿に立ち向かいます。だから趙雲殿は大人しく待っていて下さい。」
「心配しているのだ。解らないのかっ。」

バンと趙雲の横に幸村は手をついて、身を乗り出し間近でその顔を見つめる。
「貴方は私の妻なのです。戦うのは私の役目…趙雲殿は私の事だけを考えて…私の為だけに微笑んでくれていればいい。危険な目に合うのは私だけで沢山…」
間近で幸村の顔を見つめながら趙雲は呟く。
「戦が始まったら私は幸村殿と共に戦う事も出来ぬのか?」
「戦うのは私の役目です。」
「私は強いっ。」

趙雲は幸村を睨み付ける。
幸村はふいに涙を流して。
「私を置いていかないで下さい。趙雲殿は私よりずっと強い…私の妻なんてやめて武将として生きるのが貴方の幸せだって解っています。でも離したくない。この幸せを手放したくないのです。」
「幸村殿…今の私は幸村殿の妻で生きる事が一番幸せだと思っている。解ってくれぬか?愛しい幸村殿を守りたいのだ。好きだから。愛しているから。」

趙雲の縄をほどいて幸村は趙雲を抱き締めた。
「趙雲殿が欲しい…何度抱いても物足りない…」
「午後から仕事があるのだろう?」
「具合が悪いから休ませてくれと言っておきました。」

「駄目だ…大切な戦の前だ。前田慶次を迎え撃つ戦の…」
「では口づけだけでも…」

幸村は趙雲の唇に唇を寄せて口づけをする。趙雲もその口づけを優しく受けて。
幸村は再び趙雲を抱き締めながら。
「どうして慶次殿は私をほっておいてはくれぬのでしょう。ほっておいてくれたら、今の生活を壊さないでくれたらいいのに…」
「これから先の幸せを掴むために…今宵は共に立ち向かおう。私達夫婦にはこれから先、色々と難関も待ち受けているだろうが幸村殿…それを励まし共に乗り越えて行くことこそ夫婦というものではないだろうか?」
「ええ…きっとそうなのでしょうね。」
二人はしばらく抱き締め合って、互いの温もりを確認しあっていた。
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