幸村×趙雲 お話

□赤い月20
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趙雲は気が気では無かった。
もうすぐ遠呂智の残党を倒しに偽左近の案内で三成、左近、そして幸村と共に出陣する。
三成の出陣は極秘だった。秀吉の許し無くして家臣である三成は動けないからだ。
影武者を直江兼続に頼む事になり、兼続が城にやってきた。
そう、前田慶次を引き連れて。
前田慶次とは過去の因縁がある。幸村をさらわれて犯された。
その男が同じ城の中に居るのだ。
趙雲は鎧を着込み緊張した面持ちで城の中を歩いていた。
廊下であの前田慶次が黒地の着物の上に派手な赤い女物の着物を羽織った格好で幸村に絡んで居る姿を見つけてしまう。

「相変わらずイイ男だねぇ。幸村…」
「私は慶次殿が嫌いです。」
幸村が突っぱねれば慶次は楽しげに幸村の耳元に唇を寄せて。
「聞いたぜ。兼続に泣きついたんだってな。俺をどうにかして欲しいって。お陰さんで酷い目にあった。今も離して貰えねぇ。どうしてくれるんだい?」
幸村を後ろから抱き締めて慶次はその耳穴にフゥっと熱い息を吹きかける。
「離して下さいっ。」
幸村が身もだえすれば、慶次は舌をねっとりと幸村の耳の穴の中に入れて舐め上げて。
ビクンと身を震わせる幸村。
趙雲はそれを見ていたが、走り出すと慶次の腕を掴んで叫んだ。
「幸村殿を離せっ。」
「おっ。お姫様のお出ましだ。残念ながら離す気はねぇな。」
その剥き出しの腕にがりっと趙雲は噛み付く。
慶次は目を見開くも、ニヤリと笑って楽しそうに。
「まだまだ痛みが足りないねぇ。もっと噛んでみろよ。血が出る位に強く。アンタの幸村への愛ってその程度なのかい?」
趙雲が更に力を込めて噛み付けば、慶次の腕から血が流れて。
幸村が慶次に向かって。
「やめて下さいませんか?慶次殿。趙雲殿を煽って何が楽しいのです。」
「ああ。楽しいぜ。遠呂智の居ない世の中、楽しい事なんて一つもありゃしねぇ。まだまだ血が流れ足りねぇ…もっともっと噛んでみろよ。」
趙雲は唇を離すと、慶次の腕からは趙雲の噛んだ所から血が更にタラタラと流れでて。
唇を拭うと趙雲は自らの胸当てを破り捨て、その傷口を縛って。
「慶次殿は生きる目的を失ってしまったのではありませんか?」

趙雲の言葉に慶次は頷いて。
「なぁ。教えてくれよ。俺はどこへ行けばいい。何をすりゃいいんだ…」
「私達と共に戦に行きましょう。」
趙雲の言葉に慶次は首を振って。
「俺は遠呂智の味方をした。戦の相手は遠呂智軍の残党だろう?どういう顔をして戦えっていうんだい。」
幸村が。
「今の慶次殿はどうなのです。何が正しくて何が正しくないか…しっかりと見定めたらどうですか。」
「幸村…俺は…」

慶次は幸村の身体を離すと。
「絡んですまなかったねぇ。」
片手を挙げてそのまま歩いて行ってしまった慶次の後ろ姿を見送る幸村と趙雲。
幸村は。
「でも慶次殿は兼続殿に離して貰えないでしょう。兼続殿は鬼畜ですから…」
趙雲もため息をついて。
「何だか気の毒に思えてきた。幸村殿にしてきた事を思えば許せないのだが…でも私は…」
「私達にはどうする事も出来ぬ事です。」
そう幸村は言うと趙雲の手を引き、自分達の部屋へ連れて行った。

共に城の外を窓から眺めながら幸村が一言。
「あと数日で出陣ですね。趙雲殿…この城から出て、どこか人の来ない寺にでも身を寄せて私を待って貰うという訳にはいきませんか?」
「幸村殿。何を言うのだ…」
「夢を見るのです。趙雲殿が殺される夢。この前、慶次殿に傷つけられた時は…もう…耐えられないと思いました。趙雲殿を失って生きてはいけない。」
趙雲は幸村の手を握り締めて。
「私とて想いは同じ、幸村殿を守りたい。だから待つこと等出来ぬ。」
幸村は悲しそうに頷いて。
「そう言うと思っていました。」

幸村は愛しげに趙雲の頬を撫でる。
「貴方を牢に閉じこめてからどれくらいの時が経つでしょう…いえ…貴方と初めて槍を交えた時から…」
「幸村殿?」
「愛しくて愛しくてたまらない趙雲殿…」

幸村は微笑んで。
「お別れです…」
「どういう事だ?どういうっ…」

首筋に鈍い痛みを感じた。
趙雲はそのまま気が遠くなってその場に崩れ落ちる。
畳に転がる趙雲の頬に口づけを落とすと。
「どうか…私が戻ってくるまで待っていて下さい。愛しい趙雲殿…」


鮮やかな紫に色とりどりの花をあしらった女物の着物を着て、銀と金の帯を締めあでやかに微笑む趙雲。
その趙雲の手を取りいつもの赤の鎧姿で幸村は廊下を歩いていた。
左近が二人の姿を見つけ、声をかけてくる。
「これ又、綺麗な着物を着ていますねぇ。趙雲さん。」
趙雲は左近を見て幸村の後ろにおびえるようにして隠れて。
左近は眉を寄せ、幸村に向かって。
「趙雲さんに何をしたんです?幸村っ。」
「記憶を奪ったのです。今の趙雲殿は私の言いなりになる人形…」
「どうしてそんな事を。」

「だって仕方が無いでしょう。趙雲殿は戦に共に出ると言うのです。趙雲殿に何かあったらどうするのですか?私は悔やんでも悔やみきれない。これから趙雲殿を真田の息のかかった寺に預けに参ります。」
左近は泣きそうな顔で幸村の背を抱き締めて。
「あんたは馬鹿だ。幸村。」
「左近殿…」
「そんな事をして趙雲さんが喜ぶとでも思っているんですかね…」
左近は幸村の背を優しく撫でながら。
「もしアンタが死んだら誰が趙雲さんを迎えに行くんです?趙雲さんの記憶がもし戻ったら…趙雲さん苦しむでしょう。何も出来なかった自分を責めて…幸村と趙雲さんは夫婦じゃないですか…」
幸村の目から涙が零れる。
「それでも私は趙雲殿を失いたくないのです…」

「幸村殿…幸村殿…」
趙雲が一筋、涙をぽろりと流しながら幸村を見つめていた。
「趙雲殿…薬が効かなかったんですか。」
「幸村殿が泣いているのに、どうして平然としていられようか。生きる時も死ぬ時も幸村殿の傍にありたい。私は幸村殿の妻なのだから…」
幸村に横から抱きつく趙雲。
左近は幸村の身体を離して。
「いい嫁さんじゃないですかね。幸村。」
「ええ…本当にいい嫁ですよ。趙雲殿は…」
左近が二人の肩を叩いて。
「皆で生きて帰ってきましょ。っとその前に戦に行く原因は俺でしたね。申し訳ない。幸村。なんだったら留守していてくれても。」
幸村は首を振って。
「左近殿の為に行くのではないのです。三成殿の為に行くのです。当然でしょう。私は三成殿に仕えている。三成殿の為なら真田の槍、命を賭けて振るうつもりです。」
左近は肩を竦めて。
「はいはい。殿もその言葉を聞いたら喜ぶでしょ。それじゃ左近は退散しますんで、お二人でごゆっくり。良く話し合って下さいよ。」
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