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『見に来る位好きならバスケ部入れよ。今調度人手不足なんだ』
『それマネージャーって事ですか?』
『あぁ、どうだ?』
『お断りします。見るのが好きなのにマネージャーになったら片手間にしか見れないじゃないですか。嫌です』
『…それもそうだな』
肩を竦めながら残念と言った先輩に今度は胸がズキッとした。一体何なんだ、変な病気にでも掛かったのだろうか。
それにしても先輩はバスケをしている時との差が激しい気がする。プレイしてる時はバスケに集中しているせいか、真面目で寡黙なイメージだ。だけど話してみると結構おちゃらけた感じだ。そのギャップにやられる人が結構居るのかもしれないな。
ふと、何か思い立ったのか先輩が時間を聞いてきた。どうやら休憩時間が終わっていたらしい。慌てて体育館の中に戻っていく先輩を見て、少し寂しく感じた。いやだから何で?
自問自答していると先輩が振り返って此方に歩いてきた。
『お前、名前は?』
『中原千晴、です』
『中原か。俺は佐藤拓真ってんだ』
『は、はい』
此処で初めて先輩の下の名前を知った。拓真、拓真先輩、か。
頭の中で先輩の名前を反濁していたら不意に頭に重みを感じた。どうやら先輩が私の頭の上に手を乗せたらしい。
『また来いよな』
『へ?』
『見られてる方がやりがいあんだよ。特にお前は俺の事ばっかり見てきてたし』
『…………』
先輩に触られているのと先輩ばかり見ているのに気付かれてた事に蒸発しそうな気がする。今絶対に顔真っ赤だ。
ここは弁解しておかねば!恥ずかし過ぎて泣きそう!
『ああああのですね、先輩ばっか見てたのは、その、先輩のプレイが上手くて、みみ魅入ってしまうと言うか、』
『ぷはっ、どもり過ぎ!…解ってるっつーの、俺に惚れてるとか勘違いしてないから安心しな』
『…………』
『でもありがとな』
私の髪をぐしゃぐしゃにしながら先輩は良い顔で笑った。そして先輩は体育館へと戻っていった。
私はこの寂しさをずっと不思議に思っていた。先輩が居る時には寂しくなんかない。むしろ心臓の音が速過ぎて死ぬんじゃないかと心配する位だ。それに先輩に触られたり先輩が笑ったりするとドキッとしたりキュンとしたりする。なんて忙しい体だ。
でもこんな症状をいつか友達が言っていた気がする…………思い出した。恋だ。
そうか、私先輩の事好きなんだ。
先輩を好きだと自覚したら尚更顔が赤くなった気がする。こんな状態でバスケ部、ってか先輩見てられない。私は足早に体育館を後にして、トイレへと駆け込んだ。鏡を見るとまるで茹でタコみたいに真っ赤な自分の顔があって泣きそうになった。
「…前に言ったろ、お前に見られてる方がやりがいあるって」
「へ?あ、はい」
「たまには来いよな」
そう言って先輩はあの時のように私の頭をぐしゃぐしゃにした。あの時と同じ笑顔で。
手すりにおでこをつけて俯く。あの時と同じように真っ赤になった顔を見せなくするために必死だ。もうバスケ部どころじゃない。
好きな気持ち、プライスレス
(大好きだ)