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「銀時、貴様が遅刻をしないとは珍しい」

「たまにはな」

「槍でも降るんじゃねェのか」

「うっせー」


隣の席の坂田銀時という男は、常に無気力だ。常に眠そうだし、常に目が死んでいる。いつだかそれを本人に言ったら、いざという時に煌めくからいい、と言われた。嘘臭い。

そんな坂田はいつも遅刻をしてくる。一限の途中で来れば良い方だ。酷い時なんて午後から来ることもある。聞いた話によれば、ほとんどが寝坊らしい。とんだ重役出勤だ。しかし、今日はきちんとホームルームが始まる前に来た。こんなの初めてではないだろうか。よく起きれたな。


「ほら、チャイム鳴ったからさっさと散れ、しっしっ」

「テメェに言われたくねェんだけど」


チャイムが鳴ったため、自分の周りに居た友人達を追い払う坂田。今更まさかの優等生にイメチェンか、と思ったが、時間を守るために言ったことではないようだ。坂田は机に突っ伏して、寝る体勢に入った。やっぱり眠かったのか。

先生が来て出席を取る際、とても驚いていた。いつも居ない銀髪が居るんだから、驚くのも仕方無い。しかし寝ていたため、銀髪目掛けてチョークを投げていた。なんて古典的な注意の仕方。痛かったのか、渋々顔を上げた坂田は眠そうだった。


「坂田、お前今日一回でも寝たら補習な」


さすがにそれは坂田が可哀想だと皆が思ったに違いない。先生からの理不尽な物言いに、必死に抵抗する坂田。しかし先生は一切聞く耳持たず、そのままホームルームは終わってしまった。

一限が始まるまでの休憩時間中に、坂田の友人達が坂田を笑いにやって来た。自業自得と言う奴も居れば、鼻で笑う奴、爆笑する奴も居た。坂田は怒り噴騰だ。

一限の授業は数学だ。頑張らなければいけない坂田には悪いが、数学は眠くなる。私は数学が嫌いなんだ。なので教科書やノートを出して、授業を受ける準備万端で寝る体勢に入った。


「オイ」


いざ寝よう、とベストポジションを見つけた所で坂田に肩を叩かれつつ呼ばれた。私を呼ぶなんて珍しい。

しかしなんてタイミングの悪さだ。今私は寝ようとしていたのに。自分でも眉間に皺が寄ったのがわかったが、そのままの状態で坂田に顔を向けた。


「何」

「教科書見して」


どうやら教科書を忘れたらしい。いや、忘れたと言うより、紛失したと言った方が正しそうだ。この男は教科書を持って帰るなんてことはしないはずだ。


「ん」

「お前は見ねェの?」

「寝るからいい」


教科書を丸ごと渡せば、坂田は眉間に皺を寄せ、ムッとした表情になった。貸してあげたんだから、礼の一つや二つ言ってほしいものだ。


「俺が寝ちゃいけないってーのに、よくもまァそんなこと言えるな」

「だって私関係ないし」


関係ないし、それは坂田の自業自得だ。そう言えば余計に眉間に皺を寄せた坂田。そんな坂田は放っておいて、私は再度寝る体勢に入った……が、いきなりガンッと音がして、机がガタガタと揺れた。驚いて顔を上げれば、隣の坂田の机が私の机とピッタリくっついていた。


「何なの」

「お前だけ良い気にさせねー」


坂田はそう言って、机の間に教科書を広げた。坂田は意地でも私を寝かせないつもりらしい。迷惑極まりない。

私も懲りずに寝ようとするが、その度に隣から机を蹴られて寝ようにも寝れない。うざい。心底うざい。


「何で私があんたの苦行に付き合わなきゃいけない訳」

「うっせーな、黙って授業受けてろ」

「あんたに言われたくないってか人の教科書に落書きすんな」


訳の解らない数式の羅列が書かれているページの空いている所に、更に訳の解らない絵を描かれる。そんな下手くそな絵は後で責任持って消させてやる。

今は授業中のため、喋り続ける訳にもいかない。取り敢えず授業を受ける振りでもしておこう。黒板に書かれた数式を眺める。やはり訳が解らない。

ボーッと黒板を見ていれば、坂田が私の机を指でトントンと叩いた。坂田を見れば教科書を押し付けられた。意味が解らず、取り敢えず授業のページを開けば、さっきの下手くそな絵(恐らく犬)に吹き出しがついていた。


『アドレス教えて』


私は犬諸共その落書きを消した後に銀髪目掛けて消しゴムを投げつけた。




おととい来やがれ

(え、ちょ、ええええ!?)



 

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