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「1年A組が敵に襲撃された」

授業の途中に校内放送により職員室に招集された先生が、教室に戻ってきて放った最初の言葉。そして生徒は即帰宅を命ぜられた。あまりにも突然のことで、皆現状を理解出来ていない。ザワザワと騒がしい教室を先生が落ち着かせようと声を上げているが静かになる気配はない。

かく言う私は静かだ。それは落ち着いているからとかではなく、むしろ衝撃的過ぎて声が出ないだけだ。

A組が敵に襲撃された?A組ってかっちゃんがいるクラスだよ?何で?今授業中だし、何でそんな所に敵が?かっちゃん、かっちゃんは?

「せっ、先生!けけ怪我人は!?みんな無事なんですか!?」
「あ、あぁ。負傷者はいるが皆命に別状は無いとのことだ」

それを聞いて少しだけ安心した。でも負傷者はいる。かっちゃんが怪我してるかもしれない。出久君や切島君や上鳴君だって、

「敵は粗方捕まえたが、主犯格は取り逃がしたらしい。明日は休校だ。念の為外出は控えるように。とにかく今日はもう終わりだ!寄り道せずに真っ直ぐ帰宅すること!いいな!」

皆帰る支度をして、周りからガタガタと机と椅子が動く音が聞こえてきた。怖いとか、どうやって侵入したんだとか、そんな声も聞こえてくる。トモちゃんも帰り支度が出来たらしく立ち上がり、後ろの私の方へ振り向いてきた。

「千晴帰らないの?」
「わ、私、行かなきゃ」
「え?どこに、って、え!?千晴!?」

後ろからトモちゃんの驚いた声がしたけど今はそれどころじゃない。怪我人がいる。それがかっちゃんかもしれない。確かめもせずに家に帰るなんて無理だ。

帰る生徒達の流れに逆らい、保健室へと向かう。余程の重傷だった場合は病院へ搬送されるだろうけど、雄英の養護教諭の先生は優秀だ。先ずはあのリカバリーガールの元へと来る、はず。例え来なくとも、怪我をした生徒が誰かは把握している、と思う。

「失礼します!」
「千晴ちゃん?」
「えっ!?出久君!?怪我人って出久君のこと!?えっ、大丈夫!?」

保健室に入ると点滴を打っている出久君がベッドで寝ていた。パッと見たところそこまで酷い怪我ではなさそうだ。近くに寄り出久君にペタペタと触る。恥ずかしいのかアワアワし出した出久君を見て安心した。うん、大丈夫そう。

隣のベッドで寝ている人は見たことがないけど先生だろうか。胸からお腹にかけて包帯が巻かれていて見るからに痛々しい。さっきなんて吐血していたし出久君より重症そうだ。

「そっちの…先生?は大丈夫ですか?」
「あ、あぁ、大丈夫だよ。ありがとう」

私は酷い奴だ。出久君が敵に襲われて怪我してこんな状態になっているっていうのに、かっちゃんの安否が気になって仕方がない。かっちゃんが今の出久君みたいに、そこの先生みたいになっていたらどうしよう、保健室に居ないのはリカバリーガールの治癒では補えないからなんじゃ、とかそんな事ばかり考えている。

「かっちゃんは大丈夫だよ」
「っ、」
「他の皆は今警察の事情聴取を受けてると思う」
「いず、」
「千晴ちゃんは本当にかっちゃんが大好きだね」

昔から変わってないや、と笑う出久君を見て申し訳ない気持ちになった。

昔から、そう、私は昔からかっちゃんが一番で、いじめられていた出久君は見て見ぬ振りだった。またいつか会えたらその時は謝ろうって、そう決めていたのにな。

「ごめんね」
「謝られる意味がわからないよ」
「うん、ごめん」

包帯が巻かれている出久君の左手を両手で握り、個性を発動させる。数年振りの発動だったけど、きちんと発動出来た。自分の左手に鈍痛が走った。

「あれ、痛みが…」
「そろそろ行くね。今度また話そうね」

失礼しました!と声を張り上げて逃げるようにして保健室から出た。

かっちゃんが一番。それは昔も今も変わっていない。それでも目の前の友達を蔑ろにしていい理由にはならない。

馬鹿な自分が情けなくて、そんな私に笑いかけてくれる出久君が眩しくて、あのまま彼の前に居るのは辛かった。一刻も早くかっちゃんに会いたい。かっちゃんの姿が見たい。

A組に向かう廊下を全力疾走しているが、咎めてくる人は誰もいなかった。もう他の生徒は見当たらないし、先生方も対応に追われているんだろう。

走ってきた勢いのままA組の扉を思い切り開けた。ガンッ!と大きい音に中に居たA組の人達が一斉にこちらを向いてくる。

「かっちゃん」

教室の窓側の席にかっちゃんが座っている。教室に入りかっちゃんの横まで歩いて行く。

「…んだそのツラ」

かっちゃんだ。いつものかっちゃんだ。怪我もしていなそうだ。

「かっちゃん、」

かっちゃんが無事で安心した。良かった。でもさっきの情けない自分が邪魔をして素直に喜べない。かっちゃんの制服をギュッと握った。

今自分がどんな顔をしているのかわからない。でも多分きっと情けない顔をしている。これ以上顔を見られたくなくて、かっちゃんの肩口に顔を埋めた。

甘い、かっちゃんの匂いがする。









落ち着く香り




 

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