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「昨日放課後にかっちゃんに喧嘩売ったって本当!?」
「売ってないよ。調子乗ってると足元ゴッソリ掬うぞって言っただけ」
「それのどこが喧嘩を売っていない…?」

登校している途中、1年A組という単語が何度も聞こえてきた。気になって耳をダンボにしていれば、どうやら昨日の放課後に敵の襲撃を受けた1年A組に野次馬が大量に行ったらしい。

2週間先の体育祭に向けて、敵との戦いから無事に生還してきた強敵達の敵情視察といったところか。そこで中学から何かと有名なかっちゃんに、心操君が喧嘩を売ったという話が聞こえてきた。こうしちゃいられねぇ、とばかりに歩く速度を速め、自分の教室へと急いで向かい噂の心操君に詰め寄っている訳だ。

「あのかっちゃんに喧嘩売ってよく無事だったね…」
「まぁ…キレるかと思ったけど、あいつ意外と冷静だったよ」
「マジか」

前もちょっと思ったりしたけど、本当にかっちゃんも大人になったんだな…徐にブレザーのポケットに入れていたスマホを取り出し、着信履歴の一番上にいる“爆豪勝己”をタップする。心操君が何してんだこいつって言いたげな目で見てくる。

「…あ!かっちゃんおはよう!昨日かっちゃん喧嘩売られたのにキレなかったんだってね!その調子で私にもキレないようにしてもらえると凄い嬉しいな!」
『うるせーんだよ朝からクソみてぇな事で電話してくんじゃねぇわ死ね!!!』

「めっちゃキレられた」
「今のは俺もキレると思う」

なんだと。まぁ別にかっちゃんにキレられるのなんていつものことだから、そんなに気にしてはいないけども。さすがにまだ心操君にキレられたことはないから、それは避けたいところではある。

しかし体育祭ねぇ…毎年テレビで見ていたあの催しに、今年は自分が参加するのか…活躍なんてしないけど、なんとなく感慨深いものはある。

「…あれ?そう言えば私心操君の個性って聞いたことないよね?」
「中原さんの個性って何?」

質問したら質問で返された。いいけど。

「私のは“治癒”!結構何でも治せるハズ…なんだけど、自分の寿命削って治癒するようなもんだから使いたくないんだよね」
「それは…デメリットがでか過ぎるな」
「そうそう。さすがに死にたくないし」

私の個性の事を言うと大体みんな似たような反応が返ってくる。便利なのに不便だね、みたいな。もう言われ慣れてるから別にいいけどね。

「で、心操君のは?」
「…洗脳」
「ほ?それって誰かを自由に操れる的な?」
「………」
「………」
「……敵っぽい、」
「すごくない?」
「…は?」

いやだって洗脳って何それ、超かっこいいじゃん。

「だって敵とか操れたらそれ無双じゃん!超ヒーロー向きじゃん!いいなー!」
「…は?」
「やっぱりそういう個性は羨ましいよなぁ…それに比べて私のクソ個性ったら…」
「おはよー」
「あっトモちゃんおはよう!ねぇねぇトモちゃん心操君の個性知ってる!?超かっこいいんだバフ!」
「ちょっと黙って」

登校してきたトモちゃんに心操君の個性を自慢したろ!と思って話し掛けたら、思い切り心操君に口を塞がれた。手を退けようと掴んでみたけど全然動かない。心操君全力かよ。

モガモガと心操君と二人でうだうだやっていたらトモちゃんに不審な目で見られた。心外だ。



 ▽△▽



雄英体育祭はヒーロー科は勿論、普通科、サポート科、経営科が将来の為にプロヒーロー達にプレゼンをするようなイベントだ。どうしてもメインはヒーロー科になってしまうけれど、体育祭のリザルト、実力が認められればヒーロー科への転科を検討してくれる。ヒーロー科の受験に落ちて他科に来た人も数多く居るし、体育祭でやってやろうと思う人は多いはずだ。

ただ、例年見てきた体育祭の感じでは、私みたいな個性の人は勝ち残るのは中々難しそうではある。まぁ、私はヒーローを目指していないし唯一やれるとしたらレクリエーション位だから、勝ち残るも何も関係無いんだけど。あとはのんびり観戦して終わりかな。あっでもかっちゃんに出久君もいるんだし、のんびり見ている暇なんて無いかもしれない。

放課後、帰るため校門に向かって歩いていれば、グラウンドや体育館から人の声や何か物々しい音が聞こえてくる。皆体育祭に向けてトレーニングをしているのだろう。

「あれっ、千晴ちゃんだ」
「ん?あ、上鳴君だ。特訓中?」
「おー!千晴ちゃんは帰んの?特訓したりしないの?」
「うん。私の個性じゃ体育祭頑張れないからね、直帰します」
「そっか。あ、じゃあ体育祭は俺の応援してよ!」
「もちろん応援するよ!」
「マジか!よっしゃ!」

女子の応援キタ!と喜んでいる上鳴君。そんなに応援してほしかったのかな…クラスメイトの女子達に応援してもらえないのか、と思ったけれど、彼女達はライバルになるのか。人の応援してる場合じゃないもんね。

「あっでも爆豪の応援しなくて平気なん?」
「かっちゃんの応援するのは当たり前だよ」
「当たり前」
「昔から決まってる事だから」

へー、なんてあまり興味の無さそうな返しをされた。興味持たれなくても別にいいもんね。

かっちゃんの応援をすることは、いつからそうだったのかは覚えていない。気付いたら当たり前になっていた。それこそ物心つく前からそうだったんだと思う。

何でも出来る男の子。みんなの人気者で、個性も格好良い。テレビで見るヒーロー達も格好良かったけど、それよりも身近にいる凄い男の子は私にとっては輝いて見えた。そんなかっちゃんがヒーローに憧れるように、私はかっちゃんに憧れるのは必然だった。

「まーでも爆豪のついででも応援してくれんのは嬉しいわ!」
「うん、めっちゃ応援するよ」

じゃあそろそろ戻るわ!と手を振りながら走っていく上鳴君に私も手を振る。

私もヒーローになりたいと思った事もある。小さい頃は私の個性はヒーロー向きだとよく言われていた。私も人の怪我を治して喜んでくれる姿を見るのは好きだった。それに、私もヒーローになれば、かっちゃんがヒーローになって怪我をした時に駆けつけて治してあげられる。前線にはいけないけれど、かっちゃんのサポートをしてあげられる。

そんな夢は早々に諦めざるを得なかった訳だけど。さすがに早死にはしたくない。

「みんな頑張れー」

誰に言うでもなく、ポツリと呟く。私がヒーローになれない分、みんな立派なヒーローになってくれ、なんて勝手に思いを託しながら私はまた校門に向かって歩き出した。



 ▽△▽



「そういやトモちゃんてヒーロー科志望だったんだっけ?」
「いや、私も普通科一択だよ」
「お〜仲間だ」
「それに個性もこういうイベントに向いていないし、出来れば観戦だけしていたい」
「おお〜そこも仲間〜!」

体育祭当日、A組から順番でそれぞれの入り口から入場をするため、入口付近でクラスメイト達と固まって話をして時間を潰していた。気合の入っている人もいれば、私やトモちゃんのようにやる気無い人もいる。ちなみに心操君は気合入ってる勢だ。茶々でも入れようもんなら間違いなく怒られる。真面目に応援しよう。

体育祭の準備期間中、かっちゃんから一切お呼びが掛からなかった。かっちゃんのことだから体育祭に向けて特訓をしているんだろうな、と思い私からも連絡することは控えていた。教室に行けばすぐに会えるけど、それも控えた。だから今日までかっちゃんに会っていない。ちょっと寂しい。

少しテンションが下がったところでプレゼント・マイクのMCが始まり、今年の注目株のA組が盛大に紹介された。列が動きだしたので前にいる人に続いて会場に入った。

「お、お…人がいっぱい…」

自分が注目されることはないだろうけど、それでもこれだけの人に囲まれているのは緊張する。

今年の一年の主審を務めるミッドナイトが壇上に立ち、進行を執り始める。が、会場中のざわめきが収まらず、ミッドナイトの鞭がピシャン!と良い音を出している。当たったら痛そう。

「静かにしなさい!選手代表!1-A爆豪勝己!」
「え!?!?」

かっちゃんが代表なの!?えっ、てことはアレだ、入試とかで一位だったってことだ!?さ、さすがかっちゃんだ…!

制服の着方と同じく、体操服も腰パンでポケットに手を突っ込んだまま壇上にあるマイクの前に立つかっちゃん。一応全国放送されるのにそんなんで良いのかちょっと気になったけど、かっちゃん自身は何も気にしちゃいないんだろうな。ていうか久々にかっちゃん見れた。

「せんせー 俺が一位になる」

かっちゃんがそう言った瞬間、生徒達から盛大にブーイングが起こった。他クラスは勿論のこと、A組からもブーイング喰らうってどうなのかっちゃん。

「せめて跳ねの良い踏み台になってくれ」

首を切る動き付きでそんな事を言うものだから、ブーイングは全く収まらない。いやでもそれこそかっちゃんだ!!と、私は全力で拍手を送った。周りの人に変な目で見られているけど関係ない。

かっちゃんが戻ってくる時に唯一拍手をしている私に気付いたのか、目が合った。改めて力を込めて拍手をすれば少しだけ目を細めた後すぐに視線を外された。

「さーてそれじゃあ早速第一種目行きましょう!」

よく通る声を張り上げたミッドナイトが発表した第一種目は、障害物競争だった。持久力も無いし既に辞退したい。

コースさえ守れば何をしたって構わない、ということは個性を使っても問題ないってことか。まぁ私の個性じゃ何の意味もないから関係ないんだけど。

スタジアムの外へと繋がるゲートが「ガガガ…」と音を立てながら左右に開いていく。やる気が前へ前へと押すのか、皆がぐいぐいと体を押してくる。転ばないように気を付けながら歩いていたら、思いの外前に来てしまった。やる気ないのに何でこんな良いスタート地点にいるんだろ。

まぁでも前に出てしまったからには進むしかないので、やる気が無かろうがスタートダッシュ位はしよう。止まってたら危ないし。スタートの合図がし、とりあえず走る。走る…というよりまた後ろから押されてる…!ここで転けたら悲惨以外の何物でもないので何とか踏ん張っていると、急に空気が冷え出した。そう感じた次の瞬間には足が氷に覆われていて一歩も動けなくなっていた。

「は!?さむっ!えっ!?」

足を動かそうとしても一切動かせない。周りにいた人達も同じようで、寒いやら痛いやら騒いでいる。

しかし避けれた人も数多くいて、動けない人達の合間を縫って進む人、個性を使って頭上を飛んでいく人、沢山の人達が私を追い越して先へと進んでいく。

そんな中、ここ最近聞き慣れた爆発音が聞こえ、その後すぐに一人の男子が私の上を飛んで行った。

「かっちゃ、」

かっちゃんだ。小さい頃よく見てきた背中だ。私が見間違う訳がない。

一位になると言った。彼は有言実行する人だ。そんな彼を応援しないでどうする。

「っ、かっちゃん行けーーーー!!」

前にいる人達でかっちゃんの姿は見えないけれど、BOMB!と爆発音が聞こえた。地獄耳のかっちゃんだから、きっと私の声も聞こえているはずだ。









返事は爆発

(がんばれ)




 

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