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「興味があるのはアメフトで、アメフト部には興味ありません」
よろしくお願いします、と言いながら頭を下げ、上げたら何だか皆微妙な顔をしていた。何だよ失礼な。
「こんなんでも役には立つからな。しっかり働けよ、糞ガリ勉」
「やめてくれませんかその呼び方」
ガリ勉だけならまだしも糞て。しかも糞と書いてファッ〇ンなんて読むなど私は認めない。
まだ面識が無かった人と挨拶を交わし、その後姉崎先輩に部室の案内やマネージャーの仕事について説明を受けた。思ったより仕事量が多い。面倒臭い。
「今面倒だとか思ったろ」
「そんな滅相もない」
ガッシャンと銃器を出しそんな事を言ってきた悪魔先輩、間違えたヒル魔先輩。チクショウ、脅迫罪で訴えてやろうか。て言うか何で考えている事がバレたんだ。マジで何なのこの人。
て言うか栗田先輩が此方を物凄い良い笑顔で見てるんだけど。どう対応すれば良いのか。
などと考えている内に栗田先輩がドシドシと音を立てて此方に走ってきた。そのまま突進してきそうな勢いだったので身構えていたら意外にもピッタリと私の目の前で止まった。安堵していると栗田先輩は私に向かって口を開いた。
「アメフト好きなんだね!」
「……………」
いや、まァ、確かにアメフトには興味があるけど、好きかどうかと聞かれたらそれは違う気もする。物凄ぉおく良い笑顔で見てくる栗田先輩に一体どう返せば良いのだろう。この人は良い人そうだからあまり傷付けたくない。取り敢えず後ろで銃の狙いを私に定めている先輩が居るので好きですよ、と返しておこう。だって嫌いではないしね。
パァァアアと更に良い笑顔になった隣には小結が居た。フゴフゴと何か言っているが、生憎私には解らなかったので取り敢えず笑っておいた(栗田先輩は理解していたようだけど)。
「まさか本当に入部するとはな」
「ははは…」
「雷門、と小早川」
だからあれ程ヒル魔さんには気を付けろって言ったじゃねぇか、と言われても。私だって出来る事なら入りたくなかったけど、人の淡い恋心を人質(心質?)に取られたらやむを得ないと思う。
「雷門じゃなくてモン太って呼べよ」
「あァ、自分でも猿に似ている事を自覚して「違ぇ!ジョー・モンタナのモン太!」…へぇ」
それ絶対に違うだろとは言えない。だって何か必死だもんこの子。
「じゃあ僕もセナで良いよ」
「ん、じゃあ私も千晴で良いよ」
そう言ったらあたふたし出したセナが面白かった。何やら女子を名前呼びする事に慣れていないらしい。何だこの純情ボーイ。糞〜と呼ぶ誰かさんに見習ってほしい位だ。一方モン太は特に何も異論は無いようで、普通に千晴と呼んでくれた。
因みに私は相手を大体名字で呼ぶ事が多いのであだ名や名前呼びには違和感がある。しかしまァ、向こうからそう呼んでくれと言うのならそう呼ぶしかないだろう。これでも順応性はある方だと自負しているし。
「中原さん」
ふと後ろから名前を呼ばれたので振り返れば、姉崎先輩と雪光先輩が居た。姉崎先輩は元より、雪光先輩も良い人だ。頭の光り具合は今日も良好だが、あまり見ないでおこう。目に悪そうだ。
「ヒル魔君に弱味を握られてるようだけど…頑張ってね!」
「何かあったら言ってね、中原さん!」
「……………」
そう言えばあのメールはアメフト部全員に送信されているんだっけ………………勘の良い人なら気付くだろう。私が佐藤先輩をすすす好きだと。………死にたい。
何やら必死に私を励ましてくれる二人に笑顔を返し、私は十文字達の方へ向かった。やっぱりあの三人はいつも一緒に居るようで、三人の姿が見えた時ちょっと笑ってしまった。
「よっ」
「おー」
頭は良いと自負しているが、私は特に優等生と言う訳ではない。普通に髪だって染めてるし、スカートだってそれなりに短い。きちんと授業を受けているから教師も何も言ってこない。その辺は抜かりなくやっているつもりだ。
だから誰かと一緒に居るなら十文字達とかある程度砕けてる人の方が楽なのだ。まァ、セナとかもある意味楽だけど。
アメフト部にずっと居る事になったらこいつらとは腐れ縁になるかもしれない、と考えていたら遠くから銃声と怒声が聞こえた。
「明日の試合のミーティングするからとっとと部室に集まれこの糞共!」
はぁぁ、と溜め息を吐きながらも歩き出した十文字達の後ろについて私も一緒に歩き出した。
何だかんだで
(楽しいかもしれない)