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「5分以内に部室集合………って無理!」

昼休みで意気揚々と昼ご飯を食べてる最中に受信したメール。唐突な上にこの無理がある内容を送ってくる人なんてヒル魔先輩以外に誰が居るだろうか。

5分以内なんて確実に無理だが、行かないと後が怖いので出来る限り急いで部室へと向かう準備をする。まだ胃の中のものが消化し切れてないので動くと気持ち悪くなる。チクショウ吐きそうっぷ!

一緒にお昼を食べていた友達は、いきなり慌てて弁当を仕舞い出した私を怪訝な表情で見ていた。理由を説明したら今度は哀れみの表情で見られた。何だか私が物凄く可哀想な子みたいだからそんな目で見ないでくれ。

「ごめん!行ってくる!」
「がんばー」

他人事だからそんな軽口を叩けるのだろう。こちとら本気で死にそうな気がするのに。

ふと、ある事を思い出して教室を見渡す。三兄弟にセナやモン太、アメフト部の奴らは私のように急いでいる気配が無い。どうやら先輩に呼ばれているのは私だけのようだ。アメフト部に関する話じゃないのか。それとも個人的な話…………え、何それ余計怖いんですけどぉぉお!

「遅れてスイマセン!」
「遅ェぞ糞ガリ勉!」
「て言うか5分とか無理です!」

部室に入るとヒル魔先輩と姉崎先輩が居た。ちょっと一安心。

どうやら次の対戦相手の西部の対抗策を練る為に、ビデオの編集をしろとの事だった。あぁ、良かった。内容は物凄く普通だった。……いやでもしかし、私必要なのか?姉崎先輩の仕事の速さ半端無いし、私が下手に手を出すより早く終わると思う。と、ヒル魔先輩言ったら「てめぇもマネージャーだろ」と言われた。もっとも過ぎて言い返せない。

今までの西部の試合はきちんとビデオに収めてあるようだ。一体誰が撮っていたのかは聞かないでおこう。きっと例の手帳をちらつかせたに違いない。

「……すげぇ」

キッドさんと鉄馬さん。見事なコンビだ。キッドさんの冷静沈着な状況判断と早撃ちは誰にも追い付けてないし、鉄馬さんはまるで重機関車のようにルートを外れる事もない。正に理想的なクォーターバックとレシーバーだ。

泥門との西部は同じ攻撃型のチームだ。そして西部はパスに特化している。キッドさんの必殺技であるショットガンは、レシーバー陣を全員抑えなければならない。しかし完璧に抑える事は無理だろう。

「こんなんどーやって勝つんですか」
「完璧に抑える事は無理だ」
「じゃあ、」
「バンプ」
「え」
「0.1秒でも抑えりゃ良いんだよ。完璧なんて求めてねェ」

…………ヒル魔先輩が言うからには間違いないのだろう。人としてはどーかと思うが、アメフト選手としての先輩は信じれる。チラッと姉崎先輩を見ると、少し微笑みながら黙々と作業をしていた。私達の会話を聞いていたのか。いや、こんな狭い部室じゃ嫌でも聞こえるか。

取り敢えず、私はビデオを見ていく事にした。姉崎先輩が少しでも編集し易いように、重要なシーンの時間を書き出していく。休憩時間は早送りして飛ばしていく……が、一瞬見えた顔が気になり、巻き戻して再生する。

「…………げ」
「どうしたの?」
「いや、ちょっと知り合いが居たもんで」
「どいつだ」
「こいつです」

まさか奴が西部に居たとは。甲斐谷陸。奴との因縁は中学の時に遡る。私が中学の時に転入したクラスに奴は居た。容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能、背が低いのが玉に瑕、な何とも完璧な奴だった。そんな完璧な奴をミーハーな女子共が放っておく訳もなく、毎日黄色い声がそこらで上がっていた。

私は完璧な人間が嫌いだ。いや、完璧な人間なんて居る訳ないので、甲斐谷のようにほぼ完璧な奴が嫌いだと言っておこう。そしてそれを騒ぎ立てる奴らも嫌いだ。だから私はミーハーな女子共を常に冷めた目で見ていた。

そしてある日呼び出しをくらった。ミーハー女子からだった。内容は馬鹿にした目で見てくんな、態度が生意気、腹に数発。何て幼稚で在り来たりな言動。そして更に在り来たり、甲斐谷が私を助けに来たのだ。女子共は焦り、逃げるように走って行った。甲斐谷は私に向かって手を差し伸べてきた。私はその手を払い、その場を去った。

完璧な人間は嫌いだが、正義ぶった人間は大嫌いだった。

「陸っくん?」
「甲斐谷陸か。知り合いなのか」
「中学の同級生です。先輩方も奴を知ってるんですね………ふはは」

いきなり笑い出した私を先輩達は怪しんで見てくる。だって勝手に笑えてくるんだから仕方無い。

中学の頃願いに願みまくった事が叶うかもしれない。

「あの甲斐谷が負けて悔しがる所が見れる日が来るとは…!絶対に勝ちましょうね!先輩!」
「「…………」」
















悲願達成目指して頑張ります













(千晴ちゃん…)
(お前意外と性格悪いな)
(は?)



 

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