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次の試合が行われるため、私達は観客席へと移動した。巨深は見当たらない。もしかしたら帰ってしまったのかもしれない。なんてこった、駿に会っておきたかったのに。

終わってすぐだ、まだ近くに居るかもしれない。そう考えたら居ても立ってもいられなかった。姉崎先輩に断りを入れ、私は会場を後にした。十文字やヒル魔先輩が此方を見ているような気がした。

「くっそー、何処行きやがった!」

あんな背の高い奴らが集団で歩いてりゃすぐ分かりそうなもんだが…何分人が多い。一応言っておくが、私の身長は159cmだ。決して低くはない。

キョロキョロと辺りを見ながら走っていたら、案の定人にぶつかった。すいません、と謝りまた走り出そうとしたら腕を掴まれて更に何か因縁つけられた。くそう、こんな雑魚に構ってる暇なんて無いのに。

「ぶつかっといてその態度はないんじゃねぇの?お嬢ちゃん」
「いや、ちゃんと謝ったじゃないですか。て言うか腕痛いんで離せこの木偶の坊」
「それのどこが謝ってんだぁあ!」
「っ!」

相手の男が私の態度に痺れを切らして怒鳴り、手を振り上げた。構えから見るにグーだ。せめてパーにしてほしかった。これでも女なんだから。

男に対抗出来る程の力や技術なんて持ってないから、そのまま殴られるのを目を瞑り歯を食いしばって待っていた。キャー!なんて女の子らしく助けを呼ぶ事も出来ないってかしたくない。…………て言うか一向に殴られない。これは可笑しい、と思い目を開けてみた。

すると何とまァ駿が男の腕を後ろに捻っているではないか。駿の方が背がデカく筋力もあるのか、男は顔を青ざめて騒いでいた。あ、いつの間にか掴まれてた腕も離されてる。

「何やってんだよお前」
「何だろ」
「…はぁ」

こうして話している間も駿は男の腕を捻ったままである。そろそろヤバいか、ってとこで駿が手を離した。男は覚えてろよ!と吐き捨て、一目散に逃げていった。なんて雑魚キャラ。

「お前もうちょっと抵抗しろよ。俺が止めなきゃそのまま殴られてたろ」
「いやぁ、力で勝てる訳もないし。殴られたらそん時ゃそん時かと」
「…はぁ」

さすがに二回も溜め息を吐かれるとイラッとする。こいつの事だ、どーせ馬鹿だと思ってるに違いない。中学高校と死ぬ気で勉強した私の今の実力をこいつは知らない。ふっ、もう昔の馬鹿な私じゃないんだよ!

「もう昔の馬鹿な私じゃないんでね、そんな溜め息は吐かないで頂きたい!」
「…そう言うのが馬鹿だって言うんだよ」
「あ?」
「お前だって女なんだから自分を大事にしろよな」
「…す、すいません」

なんだ。なんだなんだなんだ。何か物凄く恥ずかしい。滅多に女扱いされないからだろうか。異様に顔が熱い。絶対今自分の顔は真っ赤だ。恥ずかしい。

何もこんな事で、と思う人も居るだろうが、私にとってはかなり恥ずかしい。

「あ、あー、そうだ!他の皆は?一緒じゃないの?」
「今日はもう解散だ。騒ぐ気分でもないしな」
「ふーん……あ、何か忘れてると思ったら、駿に言いたい事あったんだった」
「俺に?」

雑魚キャラに構い過ぎてて当初の目的を忘れるところだった。もう恥ずかしいとか四の五の言ってる場合じゃない。コレを言わなきゃ私は次の試合に臨めない。

駿に近付いて、駿の背中に手を回す。いきなりの事に駿は驚いていたけど構わずそのままだ。あァ、やっぱり昔と変わらない。

「お疲れ様」
「…………」
「駿は頑張った」
「…………」
「…お疲れ様」
「…あぁ」

そう言いながら、駿が私の肩に顔を埋めてきた。

小さい頃、駿が試合で負けるといつもしていた事。駿を抱き締めて、労う。負けず嫌いな駿は、負けるととても悔しそうだった。馬鹿だった私は直感的に体が動いて、駿を抱き締めた。初めは嫌がっていたけど、次第に落ち着いてきたのか駿も私を抱き締め返して顔を肩に埋めてきた。

泣いたのだ。あの駿が。悔しい、悔しい、と。一頻り泣くとスッキリしたのか、少し顔を赤らめながら離れていく。そして少しはにかみながら言うのだ、ありがとう、と。

その瞬間が私は好きだった。理由は解らない。でも駿と幼なじみで良かったと思える瞬間だった。

「…泣かないの?」
「もう泣く程弱くはないさ」
「…そっか、それは残念」
「何で」
「泣いてる駿可愛かったんだもん」
「…絶対に泣かねぇ」
「ケチ」

昔と変わった事、駿が強くなって私が馬鹿じゃなくなった。

昔と変わらない事、駿と私の身長差。相変わらず腰が辛そうだ。













初心に戻って














(サンキュ、な)
(どーいたしまして)



 

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