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「右よし、左よし、念のため上下よし!」

私は今体育館へと向かっている。そして今の時間は放課後である。体育館へは何をしに行くのかと言うと………

キュッ、キュッ!ダム!

バスケ部を見に来たのだ。アメフト部に入る前はちょくちょく体育館まで足を運んでいた。どこかの悪魔のせいで、最近は全く来れていなかったけど。

「…………」

体育館の二階に行き、上からバスケ部を見下ろす。今は練習中なのか、皆バラバラに動いている。その中に先輩を見た。

ニヤけそうになる口を必死で抑える。黙々と練習する先輩を見て相変わらずだと思った。

私以外にもバスケ部を見てる人が居るが、名前を呼んでいるあたり彼氏がバスケ部に居るのだろう。そう言った子達は大体友達を連れて数人で来ている。ちなみに私は一人だ。さ、寂しいだなんて思わないんだから!

手すりにもたれながら見ていたら、スカートのポケットから振動が伝わってきた。きっとアメフト部の誰かからだろう。だって今私はアメフト部をサボって此処に居るんだから。

しかしもしかしたら家族とか他の友達、と言う事もあるので一応携帯を開いて確認してみる。

「…………」

パタン

見なかった事にしておこう。“バラすぞ”なんて文字は見た事ないよ、うん。

………まァ、何だかんだでヒル魔先輩もそこまで悪魔ではない。バラすとしてもアメフト部の奴らだけだろう。以前全部員に送られたあのメールで気付く奴は気付くだろうし。今更だ。……さすがに全校生徒にバラすって事は無いよな、うん。

「久々だな、中原」
「…先輩」

メールの事を考えていたら、いつの間にか先輩が隣に居た。下を見てみたらどうやら今は休憩中のようだ。でも何で此処に?

「何で此処に?」
「久し振りにお前の事見たから気になって。最近何で来なかったんだ?」
「…………」

いつもならチラ見程度で終わって話す事も滅多に無いのに。アレか、押して駄目なら引いてみろか。知らず知らずの内になんて大技を使っていたんだ。もう良いよね、ニヤけても良いよね。

「気色悪い」
「…………」

そんな事言われたってめげません。だって先輩の事が大好きだから。



中学の時にバスケ部の大会を見に行った事があった。当時の友達の彼氏がバスケ部だったので一緒に見に行ってほしいと言われたからだ。

バスケは好きだから即了承した。しかし、友達よりも私の方が試合に集中していただろう。そこで私はある人にずっと魅入っていた。先輩を初めて見たのはその時だ。

先輩はそのコート上で誰よりも上手かった。

それからというもの、私は先輩のプレイを見に体育館へとちょくちょく足を運んだ。他にバスケ部を見に来ていた女共が佐藤くーん!と呼んでいたのにあの先輩が反応した。佐藤って言うのか。

特に何をするでも無く先輩はそのまま卒業していった。特に後悔はなかったし、そのままで良いと思ってた。だから先輩がどこの高校に進学したのかも知らなかった。

泥門に進学して暫く経ってから、私は体育館へと向かう。別に先輩は居ないけど、もうバスケ部を見るのが癖みたいになっていた。体育館へ入ろうと水飲み場の横を通ろうとした時に心臓が止まるかと思った。佐藤先輩がそこで水を飲んでいたからだ。あまりにも驚いて先輩を凝視してたら先輩が水を飲み終わって顔を上げた。先輩も私に気付いたようで怪訝な顔をする。

『…………』
『…………』

二人で無言で見つめ合う。あまり嬉しくない状況だ。先輩が顔を上げた時に逸らせば良かったのだが、驚きが上回って動けなかった。うぅ、気まずい。

『お前、もしかして羽中か?』
『え、あ、はい』
『やっぱり。お前よくバスケ部見に来てたろ』
『…………』
『アレ、違ったか?』
『そそ、そ、そうです!』

まさかそんな事を言われるとは思ってもみなかったので驚き過ぎて返事出来なかった。しかも返事したけど、どもってるし。変な奴だと思われたらどうしよう。

『お前バスケ好きなのか?』
『あ、はい、好きです』
『そうか』

それは良かった、と笑って言った先輩にドキッとした。アレ、何だコレ。心臓の辺りがむず痒い。

 
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