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「私の事を忘れたとは言わせねぇぞ甲斐谷陸!」
「………中原?」
今日は東京大会準決勝。対西部マシンガンズ。皆の気迫が凄まじい。負けられない闘いがそこにはある、みたいな。
東京は上位3チームまでが関東大会へと進む事が出来る。だからそこまで気負う事もないのだが、そういう問題でもないのだろう。どちらが強いか。そういった単純な考えは嫌いじゃない。
しかし、今の私にはどうでも良い事だ。目の前のこいつに是が非でも言っておきたい事がある。
「積年の恨み、今日こそ払わせてもらう!」
「…………」
「お前の負け犬の姿が見れる日がく、っいだ!」
「早く戻れっつの」
「またお前か十文字テメーコノヤロー!」
「…はぁ!?」
「ごめんなさいすいません」
十文字の顔が今まで見た事無い位キレてたので思わず謝ってしまった。ここはひとまず大人しくしとおいた方が賢明だろう。いやでもしかし米俵のように担がれるのは何故だろう。
呆然と此方を見てくる甲斐谷を指差して間抜け面だなはっはっは!と笑ってやりたいが我慢だ。また怒られたくはない。
「…ちょ、ちょっと待てよ中原!」
「あ?」
「俺お前に何かしたか?」
「何かって…ねぇ?」
「俺に聞くな」
溜め息を吐いた十文字の背中をグーで殴ったらちょっとよろめいていた。仕返しはされないようなので一安心。そしてそんな遣り取りをしている間、何の事だか全く解らないといった顔の甲斐谷がずっと此方を見ていた。
特に何かされた訳ではない。強いて言うならば甲斐谷のファンに攻撃されたのだろうか。でもただ私が甲斐谷を嫌いなだけだ。それが一番の理由。
「私はあんたが嫌い。大嫌い。」
「は?」
「理由なんてそれだけで十分でしょ」
「…………」
「ほら、十文字!さっさと歩け!」
「いで!」
何すんだこの野郎、と落とされかけた。軽く悲鳴を上げつつ、必死に謝った。今日の十文字は何だかドSだ。
チラリと甲斐谷の方を見れば、またしても呆然と此方を見ていた。良い気味だ、と思う私はきっと歪んでいる。しかし嫌いなものは嫌いなのだから仕方無い。
泥門のベンチに戻ると皆がベンチの周りに集まっていた。ヤバい、ミーティングに遅れた。
「おっっっせぇんだよこの糞ガリ勉!何処で油売ってやがった!」
「え、えっと、敵陣の…」
「また遅れる事があってみやがれ、ある事ある事バラまくからな!」
「少し位嘘吐いても罰当たりませんよって言うかすいませんでしたァァア!」
せめて無い事も言ってほしかった。額が地に着く勢いで土下座した。それ以上何か言われる事もなかったけど、皆からの冷めた視線が痛かった。
作戦の内容は昨日教えられたものと変わらない。一言付け加えられたのは、私にフラフラするなと言われた事だ。すいません自重出来たらします。
『ぶっ殺す!YEAAAAAAH!』
さぁ、始まりだ。
「終わっちゃったの…?」
「…………」
負けた。途中からムサシさんが加わったけど負けた。実力、一歩及ばず。いや、及んでたんだ。しかし運が味方しなかった。
甲斐谷はセナが見事に負かしてくれた。その瞬間途轍もない爽快感だった。だが試合には負けた。悔しい。だが、まだ次がある。それだけが救いだ。
「…俺は負けちゃいねぇ!」
「?」
モン太が踵を切ったかのように審判に抗議しだした。ヤ、ヤバい、あの調子だと結構ヤバい気がする。何か投げて気を散らせようと思い、近くにあったペットボトルを投げた。しかしペットボトルはコースを外れていった。モン太は鉄馬さんが止めてくれたみたいだ。良かった。
皆がモン太の近くに集まっていく。そして何やら戸惑ってる感じだ。皆がベンチの方に戻ってきたので話を聞いてみると、敗者復活戦についてらしい。…ん?
「東京3位に滑り込めば、」
「全国大会決勝の道が繋がる…!」
…………そう言う仲間外れってよくないと思う。何か蚊帳の外なんだけど。初めから敗者復活戦の事知ってたの一年で私だけみたいだし……何だかなァ。
全ては勝つ為に
さっき投げたペットボトルは見事甲斐谷に当たったようだ。しかも衝撃で蓋が外れたらしく、甲斐谷がびっしょりと濡れていた。ざまぁみろ。
まァ何はともあれ試合は終わった。よし、私も皆とどんちゃん騒ぎしてこようっと!栗田さんに潰されないように気を付けなきゃ。