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「千晴も行こー!!」
「は!?え、何!!?ちょ、鈴音!!」

王城と盤戸の試合が終わり、このまま流れ解散らしいので直帰しようと思い出口に向かっていれば、いきなり鈴音に腕を取られ引っ張られるようにして会場を後にした。

「千晴も行くの?」
「いやだから!私どこに行くのかすら知らないんですけど!?」

足が縺れそうになりながら必死に走っているとセナが横から話掛けてきた。問う前にこの私の状況を見てほしい。明らかに連行されてるだろうが!

しかもローラーブレードを履いている鈴音に普通の靴で並走するのは中々無理がある。足が遅い訳ではないけど、これは無理!しかもこの先の道って坂じゃん!

「す、鈴音!後からついていくから一旦手離して!」
「えー?絶対来てよね!」
「行く!行くから離せ!」

絶対だよー!と言いながら猛スピードで坂を下っていく鈴音とセナ。セナの奴まじで足速いな…!

「ムッキャ汚ったね…待てって速えー!!」
「も、モン太は私を置いていかないでくれ…!」
「あ?なんだ千晴も行くのか?」
「だからあんたら一体何処に向かってんのさ…」

なんとか一緒に走ってくれる人を見つけ、少し安心した。あんなのについて行けるか。まぁ普段運動しない私が運動部の走りについて行ける訳もないのだけど、モン太がペースを私に合わせて走ってくれている。案外気がきくじゃないか。

走りながらも話を聞いていれば、どうやら盤戸の赤羽って人が本当に本物のアイシールド21なのかどうかを確かめに、巨深に行って駿に確認しに行くらしい。その日に直接確認しに行くって行動力あり過ぎだろ。ていうか、私に言ってくれれば駿の連絡先知ってたのに…

「それを早く言えよ!」
「どこ行くかすら知らずに連行されたんですうー!」

まぁ今更騒いでもどうしようもないのでこのまま巨深を目指そう。









「も、もう…無理……」
「あぶ!」
「らっ!!」
「…何やってんの……」

そろそろ肺やら足が限界になってきたところで前を走っていた3人がぶつかって止まっていた。本当に何やってんだ。

よろよろしながら3人に近付いていけば、向かい側の道路に巨深の人達が銭湯に入るところを見つけたらしい。銭湯とか何それ羨ましい。

横断歩道を渡って反対側に行くと姉崎先輩がドリンクを持って走ってきていた。何でその状態で走ってるのか気になったけど、そんなことよりもドリンクを持っている先輩が今は天使に見える。

「せ、先輩…ドリンクください…」
「わ、中原さん大丈夫?」

私の心配をしてくれる位先輩はまだ余裕があるらしい。体力ありますね先輩…。

思い切り喉を鳴らしながら水分補給をしていると、どうやら銭湯に入ることになったらしい。めっちゃ汗かいたし効能が疲労回復なら是非とも入りたいです。はい。

銭湯なんて初めて入るなぁ、と少しドキドキしつつも、番頭に座っているお婆さんにお金を渡して空いている籠に荷物を置いた。隣で服を脱いでいる姉崎先輩のナイスなボディーに目をやり、続けて自分の身体を見下ろす…ま、まだこれからだし。成長期はこれからだし。

「うわスッゴ!まも姐のって大っきいねー!」

自分の身体に絶望していたところに追い打ちか、と鈴音達の方に目を向ければ、どうやら姉崎先輩が持ってきていたタオルのことらしい。何だ紛らわしい。

「特にセナなんかほら、あの子すぐタオルとか忘れちゃうから」

前々から思っていたけど、姉崎先輩はセナに対して本当に過保護だ。確かに頼りないと感じることもあるが、泥門のエースをしている時なんてとても頼りになる。そこまで過保護になる必要はないと思うんだけどなぁ…あれだ、男子三日会わざれば刮目して見よ、ってやつ。

まぁ、姉崎先輩はセナがアイシールド21だってことは知らないと聞くし、そこで私が何かを言うこともないんだけど。

よし、それでは早速初銭湯へ!と意気込み、気持ちばかりにタオルで身体を隠しつつ、浴室に入る。どうやら巨深のチアリーダーの人達も一緒だったらしく、中は結構な賑わいをみせていた。確かあの人はチアのキャプテンの乙姫さん……駿の奴いつもこんなナイスバデーを間近で見てんのかよ…いやでもあいつアメリカ留学してたし、もっとボインなお姉さんとかいっぱい見てるよな……今一度自分の身体を見下ろす。ま、まだこれからだし!!

さっさと体を洗い流し、早々に浴槽へと向かう。熱いのかと思いそろそろと足を浸けてみたが、思ったより適温だった。安心して全身で浸かってみたら、一気に体から力が抜ける感覚がした。さっきまで全力で走っていた疲れが飛んだ気がする。銭湯も良いもんですなぁ…。

「中原さん銭湯って初めて?」
「あぁ〜はい〜…気持ち良いもんですねぇ〜…」
「なんか千晴オジサンみたい」

クスクスと姉崎先輩と鈴音に笑われ、少し恥ずかしくなった。二人は巨深の乙姫さんと話始めたので、私は浴槽の端に寄り背中を預け、一人でお風呂を堪能することにした。

いやしかし、本当に気持ちが良い。練習終わりにこんな所に寄れるなんて巨深は贅沢だなぁ、なんて事を考えている内にとても眠くなってきた。ズルズルと体をお湯に沈めていき、うつらうつらと今にも寝落ちしそうになる。

「チェストー!!」
ドゴッ!!
「ゴブッ!ブハッ!え!何!!?」

突然響いた轟音にビックリし、思い切り口の中にお湯が入った。いきなり何だよ!一気に眠気覚めたわ!

キョロキョロと周りを見渡して状況把握に努めていれば、どうやら女湯を覗き見ようとしていた水町が、浦島さんによって制裁を加えられたらしい。そしてさっきの凄まじい音は浦島さんが女湯と男湯の間の壁を殴って破壊した音らしい。浦島さんやべぇ。

一先ず体にタオルを巻き付け、浴槽から上がる。恐る恐る半壊した壁に近寄り男湯の中を覗いてみれば、主犯の水町とセナとモン太が浴槽に沈んでいた。えっ、あいつらも覗こうとしてたの?

「お、おい!千晴!」
「んぇ?あ、駿だ」

突然名前を呼ばれ、声がした方へ顔を向ければ、顔を真っ赤にした駿が立っていた。どうした逆上せたか。

「そんな格好でこっち来るな!」
「駿だってタオル一枚じゃん」
「男と女じゃ違うだろ!」
「えぇ…駿は気にしいだなぁ…」
「お前が気にしなさ過ぎなんだ!!」

別に素っ裸見せてる訳じゃないんだし大丈夫だと思うんだけど…あんまりこうしていると更に駿に怒られそうだし、早いとこ撤退するか。また喧嘩したくないし。それにこれ以上浸かってたら溺死する気がするし。

「鈴音、私先に上がってるね」
「うん、わかったー。私もそろそろ出るー」

壁が半壊し女湯と男湯が開通したことで、中にいた人達も我先にとお風呂から上がってきていた。あー脱衣場混んでそう。ドライヤー空いてるかな……まぁ、冬でもないし、多少髪が濡れてても風邪をひくこともないだろう。

お風呂でかいた汗を引かせるべく、扇風機にあたったり、瓶入りの牛乳を飲んでいる内に結構髪も乾いてきていた。よし、これなら全然オッケーでしょ。

「千晴帰ろー」
「うん。あ、巨深の皆さんお疲れ様でした!」
「お疲れ様ー」

帰り際に巨深のチアリーダーの人達に挨拶すれば、にこやかな返事が返ってきた。可愛いし爽やかだしナイスバデーだしなんかもう色々とズルイ。

いやぁ〜良い湯だったなぁ〜と鈴音に言えば、オジサンみたいだとまた笑われた。本当に良い湯だったんだから仕方ないじゃないか…いいよもう、オジサンで…と不貞腐れつつ靴を履き替え、暖簾を手でよけて外に出た。が、思い切り何かにぶつかった。

「ぶっ、え、何…」
「おい」
「え、駿だ。何かあった……え、なんか怒ってない?」

腕を組み仁王立ちで女湯の入り口の前に突っ立っている駿。お前下手したら変質者で捕まるぞ、なんて軽口を言いたいところだけど、尋常じゃない位に駿がお怒りのご様子。しかも怒りの矛先は私っぽい。な、何かしたっけ。

「お前の馬鹿さ加減にはほとほと呆れる」
「んなっ、」
「女なんだから少しは恥じらいを持て!」

馬鹿と言われ、反論しようとしたが次の駿の言葉により、喉もとでそれは止まった。

…いや……え…?

「タオル一枚で男の前に出るな!」
「いや、」
「大体お前は昔からそうだ!」
「あの、」

女湯の入り口前で、駿による説教が始まった。巨深の人達が遠巻きに私達のことを見ている。一緒に出てきた鈴音達も……ってあれ!?

「鈴音!?先輩!?」
「私達先に帰ってるね〜」
「ちょっ、そんなご無体な、」
「聞いてるのか!?」
「ア、ハイ…」

静かに私達から離れていく鈴音と先輩に助けてくれと目線を送ったけれど、そのままどんどん遠ざかっていく。ひどい。

懇懇と説教を続けていく駿を見る。これは長くなりそうだなぁ…なんて軽く現実逃避をしてみたけれど、過ぎ行く人達の変なものを見る目によりすぐ現実に戻された。













持つべきものは幼馴染













(お前は私の母ちゃんか…)
(何か言ったか!?)
(イエ別ニ…)


 

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