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□先輩!
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上から俺の事をただただジッ、と見てくるあいつが気になり始めたのは、いつだったか。



中学生の時、俺は青春の全てをバスケに費やしていた。小さい頃から続けていたミニバスのお陰で、他の人より上手かったし、何よりバスケが大好きだった。

お世辞にも頭が良いとは言えなかったから、成績はあまりよく無かった。あ、でも体育の授業だけは5だったな。さすが俺。……兎に角、勉強をしない分、俺はバスケをひたすらやっていた。

自分で言うのもアレだけど、バスケをしている時の俺は格好良いと思う。真面目にやるし、一応エースだし。だから部活の練習中に女子に名前を呼ばれる事もあって、その度に部活仲間に冷やかされる事も多々あった。



俺が中二の時、地区大会で優勝をした。けれど次の関東大会では16強までは行けたが、そこで終わった。その時俺はエースでスタメンだった。悔しくて、泣いた。

中三に上がり、俺は部長になった。今年こそは全国制覇、と意気込んでいた。下の奴らも腕を上げてきているし、去年よりも良い状態で臨めそうだった。

毎年ある春の大会、確か準決勝だったような気がする。部員の奴らがアップの準備をしている中、一人だけ落ち着き無くそわそわしている奴が居た。そいつは二年で、初めてベンチメンバーに入れた。だから緊張でもしてるのかと思い、話し掛けて緊張を解いてやろうと近付いていった。すると、予想していた答えと全く違う答えが返ってきた。

『今日俺の彼女が見に来るんスよ。だから不様な姿は見せられないな、って思ったら緊張してきちゃって』
『…………お前一回痛い目見て来い』
『な、部長それ酷いッスよ!あ、あそこに居るの俺の彼女ッス!可愛いんで見てください!』

おーい!と大きく手を振る目の前の後輩に軽く殺意を覚えた。試合前に何どーでもいい事考えてやがる。しかしまァ、そんなに言うのなら見てやろう。そう思い、後輩の目線の先を追った。そこには隣のこいつと同じように笑顔で大きく手を振っている女の子と、つまらなそうに此方を見てくる女の子が居た。

確かに可愛い。でも俺は後輩の彼女よりも、その隣の女の子の方が気になった。大方彼氏の試合を観に行くのに一緒に来てほしいとでも頼まれたのだろう。そう考えると、あんなにつまらなそうなのにも納得がいく。

その日の試合は楽勝だった。伊達に去年優勝していない。その後の試合も順当に勝ち進み、それにつれて体育館に練習を観に来るギャラリーも増えていった。

声を聞く限りでは俺の名前を呼ぶ声が多い気がする。エースも捨てたもんじゃないな。でも公私混同するのは好きではないから練習中はひたすら無視をする。

関東大会の決勝戦を間近に控えた俺達は、練習もかなり気合いの入ったものだった。それに比例するかのようにギャラリーの歓声も凄まじかった。

決勝戦前日、皆が真剣に練習している中でも歓声は凄かった。むしろ今までで一番凄かったんじゃないだろうか。さすがにこんな騒音の中では良い練習なんか出来ない。ここは部長としてギャラリーに言っておこう、そう思い二階の方を見上げてみて驚いた。あの時の、つまらなそうにしていた子が居たのだ。一人で静かに此方を見ているのを見る限りでは、応援に来ている風ではなかった。

暫くその子を見ていたら向こうも俺が見ている事に気付いたのか素早く目を逸らされた。ちょっと傷付いた……じゃなくて、注意しなければ、と思い出した所でハッとする。もし注意して彼女が帰ってしまったらどうしよう。

そしてまたそこでハッとする。別にあの子が帰ったって問題は無い筈だ。そんな事を気にする必要は無い。いやでも、と心の中で自問自答をするが、答えは出なかった。結局こう言った緊張感も必要だろう、と自己完結してそのまま練習を続けた。

それからと言うもの、俺は練習中に二階の方を気にするようになった。あの子を探すためだ。毎回居る訳では無かったが、かなりの頻度であの子を見付けた。そしていつもあの子は一人だった。

暫くして気付く、あの子はどうも俺の事ばかり見ている、気がする。でも俺に対する視線が恋愛対象、そう言った感じでは無かった。だからか、あの子の視線は俺に良い緊張感を与えてくれていた。好意を持った視線や言動だと、時に鬱陶しく感じるから。



全国制覇、その夢は叶わないまま俺は中学卒業を迎えた。良い所まで行けたが、結局は関東大会止まりだった。この夢は高校に持ち越しだ。

卒業するまで俺はある期待をしていた。もしかしたらあの子が告白とかしてくるのでは、と。しかし卒業当日になろうとも、あの子は来なかった。別に好きだった訳では無いが、少々ガッカリしつつ、心の中であの子にサヨナラを告げた。もう会う事も無いだろう。



 
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