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□本能のままに
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「俺、みょうじのこと好きなんだけど!」
「……はぁ?」
帰りのホームルームも終わっていざ帰ろう、と立ち上がって教室を出ようとしたらいきなり呼び止められて、めんどくせぇ誰だよとか思って振り返ったらどうやら私を呼び止めたのは田島でしかも何か好きとか言われた。は?何コレ。クラスメート達も皆一様にポカンとした顔をしている。もちろん私も。
「だから、みょうじが好きなんだってば」
「……いやいやいやいや」
百歩譲って告白は良いとして、何故こんな人が大勢居る教室なんだ。場所を考えろ、場所を。
ポカンとしていたクラスメート達も状況を把握したのか、一気に騒がしくなった。ヒューヒュー!やら、田島やるなぁオイ!やら、キャー告白されてんじゃんどうすんの!?やら、少し静かにしてほしい。
「で、付き合ってほしいんだけど」
「いや、ていうか何で私?」
全く以て私が田島に好かれる理由が解らない。そりゃ同じクラスだし話すことはあるけど、そこまで仲が良い訳ではない。当たり障りない会話しかした覚えがない。
田島の近くに居た泉は何やら呆れた顔をしているし、後ろに居る三橋は田島と私を交互に見やっている。あ、目が合った。あ、逸らされた。近くに鏡がないから確認は出来ないが、今の私はきっと泉と同じ呆れた顔をしていると思う。
「みょうじがいい」
「…………」
田島が私のことを好きだと言う度に周りがかき立てる。うるさいっつーか、そろそろ居たたまれなくなってきた。皆が皆、私の返事を待っている。皆の目が私に向いてるのがわかる。何だこの羞恥プレイ。
「…とりあえず、場所移動しよう」
「おう、いーぜ!」
二人で教室を出れば、後ろから頑張れよー!と何人かの声が聞こえた。この調子じゃ明日は他のクラスにまで広まっていそうだ。やだな、明日休もうかな。
そう言えば今日は野球部は休みらしい。束の間の休息、らしい。なので移動がてらそのまま帰宅することになった。
ちなみに私は徒歩通学だ。自転車通学の田島は自転車を押しながら、私と一緒に歩いている。何だかちょっと申し訳ない気持ちになった。
「何で教室であんなこと言うの」
「え?だって言いたくなったんだもん」
もん、じゃねぇよ。あっけらかんと言う田島には呆れる。こいつの思考回路どーなってんだ。この自由人め。
しかし田島の普段の行動を考えると、それも納得してしまいそうになる。クラスのムードメーカーで、バカだけど良い奴。こいつが言うことには力がある。バカなのに。
「私そんなに田島と仲良くないと思うんだけど」
「え!俺ら友達だろ?」
なんと、どうやらただのクラスメートではなく友達だったらしい。一言でも話せば友達ってか。まァ友達であることは良い、しかしその先に行くかどうかだ。
「友達は嬉しいけど、彼氏にどうかと言われるとねぇ」
「みょうじは俺のこと嫌い?」
もし田島に犬のような耳と尻尾がついていたら確実に垂れていただろう。それ位シュンとしてた。少し可愛いと思ってしまった。バカか。
「嫌いじゃないけど、何で私なのかがわからない」
それこそ訳がわからないと言った顔をする田島。わかる訳ないだろう。
「なーんかみょうじって良い匂いすんだよな」
「は?」
「みょうじ見てるとムラムラする」
ちょっと、いやかなり引いた。何言ってんのこいつ。本物の変態さんかしら。自転車を停めて私に近付いてくる田島。ジッと見ながら近付いてくる田島に耐えられなくて、少し後退りした。それでも田島の方が早くて、私達の間の距離はほとんど埋まってしまった。しかも私の後ろは壁。田島に両手を取られ、完璧逃げ場を失った。
「みょうじと話してっと、キスしたくなんだ」
「や、あの」
「下手に変なことするまえに、合意の元したいじゃん?」
変なことって何するつもりだ、と問い詰めたかったのに、その言葉は田島の唇によって出ることはなかった。
バカなクラスメートはやっぱりバカで、しかも変態だった。
本能のままに
(明日は休もう)
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田島は本能に従って行動しそうだな、と思いまして…。
自分に合う子も本能で嗅ぎ付けそうです。