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□波乱の幕開け
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「アレ……ヤスさん?」
「あ?…おー、なまえじゃねぇか。久しぶりだな」
「やっぱりヤスさんだ!久しぶり!頭どうしたの、大丈夫?」
「喧嘩売ってんのか」
モンスターバッシュ一回戦、試合がすんなりと、すんなりと無事に終わりすぎてうなだれていたら、懐かしい奴が居た。向こうから声をかけられ久しぶりと返せば、何とも失礼な言い方をする目の前の女。冗談だってー!と笑いながらバシバシ叩いてくるこいつは、前と全く変わらない。
「髪型変わってて全然わかんなかったよ。リーゼントやめたんだ?」
「時代遅れだからな」
あ、やっと気付いた?なんて真顔で見てきたなまえに軽く殺意を覚える。相変わらず人をイラつかせるのが上手い。
なまえは空手をやってた時の後輩だ。小さい頃は何故か俺にやたらと懐いて、俺の後ろにくっついて来ていた。ガキの扱いなんてわかんねーし苦手だったから、酷いことをした気もする。それでもずっと俺についてきた。
こんなんでもなかなか優秀な奴で、年上の男でも負かす程だ。ま、俺は一度も負けたことねーけど。
俺が空手を辞めてからも、こいつはずっと空手を続けている。なまじ家が近所なもんで親から情報が入ってくる。どうやら全中で優勝したらしい。すげぇな。
「……ヤス、誰だその子は!」
「ぐふぁっ!」
「あ、ヤスさんのチームメイトさん達?初めましてー、なまえです」
「安原さんの彼女か?」
そうだ、今はこいつらが居たんだった。千秋、チャッキー、ナベが裏切り者ー!と叫びながら俺を潰そうとしてくる。ヤバい、死ぬ。
しかも何かスッゴい嫌な誤解が生まれている気がする。誰が彼女だって?こんなゴリラ女絶対彼女にしたくない。
「私がヤスさんの彼女ぉ?冗談やめてくださいよー!虫酸が走る」
「てめぇやっぱ喧嘩売ってんだろ!」
こいつは一々人をイラつかせないと気が済まないのだろうか。こんなやり取りにさすがに彼女じゃないと解ったんだろう、千秋達も退いた。しかも若干こいつらが引いてる気がする。こいつらが引くなんて相当だ。
「キミは誰かの応援で来たの?」
「………はい、そーですよ。友達が出るみたいで」
「でも友達って、お前まだ中学生だろ」
「そーだよ、そいつも中三。ほら、あのゴリラズってチーム」
ゴリラズ………ってさっきのゴリラが居るチームじゃねぇか!てことは友達ってのはあのチビか。つーかさっきの間は何だ。
「次当たるとこじゃの」
「え、マジすか。あ、そっか、ヤスさん九頭高だったっけ」
忘れてたーなんて暢気に言うなまえ。どっちにも知り合いが居るなんてこいつは気まずくないのだろうか。いや、向こうの応援に来てるんだ。関係ねぇか。
「……キミには悪いけど、あいつ負かすから!」
「え?あー行太ですか?いいですよ、むしろ完膚なきまでに叩き潰してやってください」
意気込んで言った空坊もさすがに肩透かしを食らったようだ。そりゃそうだ。あのチビの応援来てんじゃねぇのかよ。
「あいつ生意気なんですよ。ちょっと人より上手いからって調子乗りやがってウザいったらない。一回痛い目にあった方がいい」
「…………」
「それはそうと、先輩小さいですね。何cmなんですか?」
「あの…僕の頭肘置きにしないでくれる?」
オイ、お前友達じゃねぇのか。友達はもっと大事にしろ、と思ったところで思い出す。そうだ、こいつはこーいう奴だった。
仮にも年上に向かってその態度。今も空坊の頭に肘を置きながら話している。お前こそ生意気だ。昔はもっと可愛かったのに…見た目はそれなりなのに中身が残念過ぎる。可哀相に、モテねぇだろうな。
「つーかヤスさんどっから見てもバスケットマンだね」
「だろ」
「まさか空手辞めてバスケやるとはなァ……よし、決めた」
どっから見てもバスケットマン、って嬉しい反面ちょっと照れる。しかし無駄に真面目な顔で何かを決めたなまえに嫌な予感しかしない。
「私九頭高受験するわ」
「……はぁ!?」
「何、嫌なのヤスさん」
「いや、だってお前、どーせなら空手強いとこ行けよ。推薦とかあんじゃねぇの?」
「私もう空手辞めるし。だから九頭高入ってバスケ部のマネージャーやる!」
後ろで千秋達がマネージャーが増えたー!なんて万歳してるが俺はそれどころじゃない。言いたい事が腐る程ある。しかしそんな俺には見向きもせず、来年からよろしくお願いします!なんて挨拶するなまえ。今から頭が痛い。
色んな意味で波乱の幕開け
(つーか頭より腹痛ぇ)