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□守って
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「あれ、雪男君?」

「あぁ、なまえさん、お久し振りです」


久し振りに本部へと来てみれば、ちょっと前に祓魔師内で有名になった雪男君が居た。最年少で祓魔師になったってかなり噂されていたからなァ。知らない人は居ないんじゃないかな。かく言う私は以前からシュラと仲が良かったお陰か、雪男君が小さい頃から知っている。声をかければニコッと笑いかけてくる雪男君。なかなか格好良くなったじゃないか。


「今更だけど祓魔師昇格おめでとう」

「ありがとうございます」


一年経ってますけどね、なんて苦笑いされてしまった。仕方無いじゃないか。だって最後に会ったのは相当前だ。少なくとも二年前であることは確実。シュラからも話は聞いていたけど、実際に会うのは本当に久し振りである。

本部に来るのは本当に久し振りで出来れば知り合いに会いたいなーなんて考えていたから、雪男君に会えたのは嬉しい。小さい頃から知っている分、弟みたいな感覚に近い。それに雪男君は私に懐いてくれてたし。シュラが虐めて、私が慰めてたからかもしれないけど。


「藤本さん、元気?」

「元気ですよ。今度顔見せに行ってあげてください」


任務で行く暇無いな、って言おうとしたけどやめた。ここは社交辞令的にも行くと言っておいた方が賢明だ。行くと言えば何とも眩しい笑顔が私に向けられる。目が潰れそう。

お互い時間に余裕があったのでしばらく話をしていれば、どうやら雪男君は任務があって本部に来たらしかった。詳しく話を聞いていけばまさかまさか、私と一緒の任務だった。確かに今回の任務は二人一組とは聞いていたけど…雪男君だなんて思わないだろう。


「なまえさんは騎士でしたよね」

「そうだよ。雪男君は…竜騎士だっけ」

「あと医工騎士もです」


あれま、もう称号二つも取ってるんだ。凄いなぁ。私なんて最近やっと詠唱騎士を取れたっていうのに。

今回の任務は中級の悪魔討伐。数は少ないみたいだから私一人でも行けるには行けるんだけど、何やら新人の教育も兼ねているらしい。色んな祓魔師について行って経験を積ませるのが目的のようだ。でも今回は雪男君は私の補佐に回ってもらおう。詠唱騎士を取ったと言っても本分は騎士だし。


「じゃあ雪男君は私の補佐ね」

「嫌です」


………アレ、幻聴かな。雪男君の笑顔は変わってないのに拒否の言葉が聞こえたんだけど。


「僕が先導します。なまえさんが補佐で」


幻聴じゃなかった。ていうか私何で雪男君に命令されてんの。一応私キミの先輩なんだけどな。

雪男君が補佐だと言っても嫌ですの一点張り。何がキミをそこまで頑なにさせているのだろうか。これでも祓魔師になって数年経ってる。経験もかなり積んでる。それにコンビを組むとなれば、相方に怪我をさせる訳にはいかない。


「雪男君が補佐!これは命令!」

「…っ、嫌なんですよ!」

「…………」

「…守られてばかりなんて」


手をギュッと握り締め、絞り出すようにして出てきたその言葉。顔は下を向いているために表情は判らない。でもきっと悔しさで顔を歪ませているんだろう。

そう言えば以前チラッと話を聞いた覚えがある。ずっと双子の兄に守られてきた。だから強くなって自分が兄を守りたいんだと。それを聞いた時はなんて素敵な兄弟愛!と感激したものだ。

だからと言って、今回の任務で私が退くつもりは毛頭無いけども。


「雪男君の気持ちはよく解る。でも私は雪男君を守りたいの。だから雪男君は補「嫌です」

「まだ言うか」


もうさっきからこのやり取り何回やってるんだろう。いい加減面倒臭くなってきた。おとなしく大人に守られててよ。


「僕は貴女も守る」

「は」

「なまえさんに守られるのも慰められるのも嫌なんです。だから守らせてください」


いきなり雪男君が近付いてきて、私を抱き締める。雪男君の方が背が高いから、顔が埋もれて少し苦しい。それに突然過ぎて思考が追い付かない。されるがままだ。

やっと同じ場所に立てたんだ、と私の耳元で呟いた雪男君。それと同時に私を抱き締める腕に力がこもった。









守ってなんぼ

(あれ、ちょ……あれ?)



 

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