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□その顔を
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「……間久見?」

「…んだよ」

「や、ちょ、マジで間久見!?」

「だから何だよ」

「あんたバスケ辞めたんじゃなかったの!?」


部活の地区大会、この日のために死ぬ程練習してきた。日頃の練習の成果か、ユニフォームを貰えることが出来た。そして今日はスターターとして試合に出れる。緊張し過ぎて少ししか寝れなかった。でもテンションが上がってるせいか寝不足なんて全く感じない。そしていざ会場へとやって来れば、そこにはまさかまさかの間久見が居た。

間久見とは中学の時同じ部活の仲間で、結構仲良くしていた。間久見はキャプテンでバスケもめっちゃ上手くて、コイツは高校は強豪校行くんだろーなーとか思ってたのにまさかあの鶴工に進学。どうして、何で、って何回も訊いた気がする。


「あっユニ着てる!え、ま、またバスケしてるの!?」

「見りゃわかんだろ」

「……本当にバスケしてるんだ…」


鶴工に行ったからてっきりバスケは辞めたのだとばかり思ってた。ていうかバスケ部あったんだね。良かったね。バスケ続けられて良かったね。


「…何で泣いてんだよ。負けた訳でもねーのに」

「だっ、だってぇぇ」

「試合前に余計な体力使うなよ」

「うぐっ」


間久見がバスケが大好きだったのはよく知ってる。家の工場のために鶴工に行ったのも知ってる。それで大好きなバスケを諦めたのも痛い位知ってる。もう間久見のバスケが見れないって知ったら、涙が出る位悲しかったんだ。

だから今間久見がバスケしてることが嬉しくて堪らない。そりゃ涙だって出てくるさ。間久見が鞄からタオルを出して私の顔に押し付けてきた。鼻が潰れた。


「いひゃい…」

「何も変わってねぇな、お前」

「そういう間久見こそ……でっかくなったね」


間久見も変わってないじゃん、って言おうとしたけど随分変わってた。私だってそれなりに身長伸びてるのに。間久見はもっとデカくなってた。くっ、男子の成長期が憎い。

そう言えば、と目の前のユニを確認する。やっぱり4番か。だよね、間久見が4番以外なんて考えられないもん。


「やっぱアレだね、間久見は4番が似合うよ」

「何だそれ」


クツクツ笑う間久見は、やっぱり変わった。なんつーか、大人になった気がする。中学卒業から会ってなかったから、二年も経てばそりゃ大人にもなるか。くそっ、不覚にもドキッとしてしまった。何だか恥ずかしいじゃないか。


「あ、あー、そう!聞いて!私今日初めて試合出れるの!しかもスターター!」

「へぇ、」

「だから今日緊張してヤバくって…」


恥ずかしさを紛らわすために繋いだ会話だったけど、思い出したらまた緊張してきた。折角間久見に会って忘れてたのに。一気に手に汗をかいた。下を向いてタオルを握り締めて、汗を取っても手汗が止まることはない。更にタオルをギュッと握れば、不意に頭に何か置かれた。顔を上げれば間久見の手だった。


「お前らしくねぇな」

「………」

「緊張なんてする程繊細でもねーだろ」

「…アレ、これバカにされてる?」


励ましてくれるのかと思いきやなんかバカにされた。この野郎……と睨みを効かせてみたが効果は無いようだ。暢気に笑ってやがる。そりゃいつももっとイカツい方々見てるもんね。ですよね。

いやでも不思議と緊張は無くなった。思えば中学の試合の時もコイツと話せば緊張は無くなってたな。何だこりゃ、間久見マジックか。変な能力でも持ってんのか、とマジマジと見ていたら、さっきから頭の上にあった手でわしゃわしゃと撫でられた。あぁ!髪の毛ぐしゃぐしゃ!


「何すんの!」

「お前時間良いのか?第一試合迫ってっけど」

「え、うそ!」


時間を確認すればとっくに集合時間は過ぎていた。なんてこった!慌てて行こうと足を踏み出したが、こんな形で間久見とバイバイするのは何だか嫌だった。間久見にちゃんと向き直る。


「私ね、間久見のバスケが好きで、間久見と一緒にバスケがしたくて、練習頑張ってたんだ」

「…………」

「…だから!今度一緒にバスケしよう!約束!」


ん!と目の前に差し出した小指に少し間を置いて絡ませてきた間久見は、あの頃みたいに笑っていた。








その顔を見るだけで

(何でも出来そうな気になるんだよ)




 

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