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□一時休戦だ
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「おいこら七瀬」
「なんだ」
「折角人が気持ち良く寝てるところを椅子蹴り上げて起こすとは何事だ」
「プリント回ってきてるのに起きないお前が悪い」
「それなら手で起こせば良くない?何で足使ったの?その腕は飾りなの?」
「足の方が早い」
「いやいや足振り上げるのと腕伸ばすのそんなに大差ないだろ。蹴られた瞬間の私見てた?変な声出して飛び起きたせいで皆から見られたんだけど」
「面白かったな」
「面白くねえええええ!」
なんなのこいつホントむかつくんだけど!しかも真顔で面白いとか言うな!色々笑えないわ!
「まぁまぁ、みょうじさん落ち着いて」
「これが落ち着いていられるかあ!もうホント何こいつ!橘!どーにかして」
「どうにかしてと言われてもなぁ…」
私の後ろの席の七瀬、そして七瀬の左隣の席の橘は所謂幼馴染というやつらしい。幼馴染と言うならしっかり面倒見ろ!と七瀬を指差して橘に言ってもいつも下がっている眉を更に下げて笑っただけだった。
二年生に上がってクラスが変わり、七瀬と橘と初めて同じクラスになった。席が近いこともあり話すことはあったが、基本私は寝てることが多いので夢現つの中でなんか矢鱈とこいつら仲良しだなと思っていただけだった。
それがまぁ、何でこんなに喧嘩するまでになったかと言うと行事やら席ごとの班分けやら色々あった中で更に色々ありまして、どうやら七瀬と私は似てるらしい、という結論に至った。見た目ではなく内面的なものが。しかしそれが似てるから仲良くなるとかではなく、むしろ同族嫌悪に近いものだった訳でして。
橘には「ハルが二人になったみたい」とか言われて七瀬と二人で今の言葉訂正しろと迫ったりもした。
「もうマジで早く席替えしないかな…七瀬の前ヤダ」
「奇遇だな、俺もみょうじの後ろはイヤだ」
「喧嘩売ってる?」
「お前に喧嘩売る位なら鯖を買った方が良い」
「…え?………え?何言ってんのこの人」
意味がわからな過ぎて橘に助けを求めたがまたもや眉を下げて笑うだけだった。いや、いつも代弁してるみたいにこいつの言ってること訳せよ。そんな顔したって誤魔化せないんだからなあ!
くっそ、いつも七瀬の世話ばっか焼いてるくせにこういう時は流すのかよ!無害そうな顔しやがってやる時はやるってか!くっそ、味方がいない!
「…橘は私の味方だと思っていたのに…」
「え、ぇえ!?」
「ひどいよ…」
「ちょっ、ちょみょうじさん!ごめん、ごめんね!」
「もういいよ…おとなしく寝てるから…」
焦る橘を尻目に私は腕を枕に机に突っ伏し、ガッッ!
「だぁかぁらぁ!その腕は飾りなの!?泳ぐためにしか存在してないものなの!?」
「わかってるじゃないか」
「認めちゃったよ!」
もうホントやだこいつ。私が寝る態勢に入ると椅子蹴り上げるとかマジでふざけんな。普通に椅子蹴られるより衝撃スゴイんだからな。結構ビクッ!てするんだからな。そんで結構恥ずかしいんだからな…!
私が落ち込んだと思っていた橘は私の勢いに呆気に取られたようで文字通りポカーンとしていた。いや、別に騙すとかそんなつもりはなかったけど結果そうなったことは申し訳ない。そこは素直に謝るよ。心の中で。
実際橘が居なかったらもっと殺伐としてるだろうし、きっと七瀬ともそんなに話すことはないと思う。橘は良い奴だから好きだ。しかし貴様は別だ。
「大体何で私が寝ると起こすの?放っておけば良くない?」
「さっきみたいにプリントが来たら誰が回すんだ」
「それは七瀬が立って取りに行けば良いと思うよ」
「……チッ」
「え、今舌打ちした?え、感じ悪い」
「お前が寝たら俺が丸見えになって俺が寝れなくなるだろ。迷惑だ」
「あ、なるほど………いや、うん、ちょっと待って」
「お前のせいで俺は睡眠不足だ」
「いやいやいや何当たり前みたいに言ってんの?おかしくない?え?私がおかしいの?」
「あぁ、お前がおかしい」
「…たぁーちぃーばぁーなぁああ!あんたの幼馴染頭おかしいんだけど!ねえ!」
「真琴!こいつがおかしいに決まってるだろ!」
「………やっぱり二人似てるよね」
「「似てない!!」」
「……ぶっ、あっは、ははは!」
堪え切れないとばかりに吹き出した橘は目に涙を溜める程お腹を抱えて笑っている。その姿に毒気を抜かれた私と七瀬は顔を見合わせて同じことを思ったに違いない。
一時休戦だ
(今回は橘の笑顔に免じて許してやらぁ)