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□くたばれ太陽
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私は今江戸の見廻りをしている。サボりたくて仕方が無い。
だって、まだ夏前だと言うのに今日の最高気温は30度。太陽は燦々とこの江戸を照らしている。シャツは汗で体にぴったりとくっついている。幹部服では無いから何枚も着る事は無いけど、こんな思い切り熱を吸収する黒で、しかも風通しの悪い制服なんて着てられるか!
「あー死ぬー誰か助けてー」
「上着脱げば?」
「山崎さんはよく平気でいられますね」
今日の見廻りが一緒だった監察の山崎さんはと言うと、真選組の制服を優等生のように礼儀正しく着ている。うわぁ、見ているだけで暑い。太陽の光を浴びて黒光りしてるよ。何か黒光りって言うとイニシャルGを思い出すな。あのサカサカすばしっこい奴等も暑さは駄目なのかな。いやでも奴等のしぶとさと言ったら半端無いしな。多分奴等は摂氏40度位でも生きていけるだろう。いいな、私も暑さに強くなりたい。
「ゴキブリになりたい」
「ええええ!?ちょ、いきなり何言ってんのォォォ!?」
「だってゴキブリになったら暑さに強くなれるんですよ?」
「いやだからってゴキブリになるのは違うと思う!」
何だよチクショー。山崎さんのくせに反論しやがった。いいじゃん、ゴキブリになったら楽々と夏も過ごせそうじゃん。
「そんなに暑いなら取り敢えず上着脱ぎなよ」
「脱ぎたいのは山々なんですけど…」
「けど、何」
「汗でシャツが濡れててブラ見えてると思うんですよね」
「…………」
「さすがに公然の場でそんなものを曝すのはどうかと思うんで…って山崎さん?どうかしましたか…」
返事が無いので気になって山崎さんを見たら此方を見て止まってた。え、何?ホントにどうしたのこの人。私何か変な事言ったっけ?よく分からんが取り敢えず山崎さんの顔の前で手を振ってみた。
「おーい、山崎さーん?」
「…………」
「目開けたまま寝ないで下さーい」
「…………」
「起きないと置いてきますよー」
「……(ガシッ)」
「ギャアアアア!」
何だよこいつ!動いたと思ったら私の腕掴んできやがった!びびったー!すげぇびびったー!あぁ!大声あげたせいで道行く人に見られてるよチクショー恥ずかしい!
「ちょ、何なんですか山崎さん!ビックリするじゃないですか!」
「…じゃ…め」
「は!?じゃめ!?」
「脱いじゃダメ!」
………………え、何言ってんのこの人。脱いじゃダメ?え、何、変態?怖っ!
「近寄らないで下さい」
「え、何その距離感!俺何かした!?」
「脱いじゃダメとか何か気持ち悪い事言いました」
「あっ、いや、アレは、」
「地味な変態の言い訳なんて聞きたくありません。先に帰ります」
「地味な変態って何だァァァ!いや、ちょ、待って!」
何か物凄い焦ってるけど無視だ。変態地味男なんて相手にしちゃいけない。さてと、こんな暑い外なんて歩いてないで、さっさと屯所に帰ろう。冷房は付いてないけど、外に居るよりは幾らか楽だろうし。あぁ、アイス食べたい。
「だから、ちょ、待ってよ!」
「あー暑いなー」
「無視しないでェェェ!」
するに決まってるでしょう。変態地味男と知り合いだなんて周りに知られたらどうなるか分かったもんじゃない。
「アイス奢ってあげるから許して!」
「何ですと?」
「あぁもうその都合の良い耳が羨ましいよ」
「帰ります」
「だぁーっ!嘘!嘘だってば!ほら、あのファミレス入ろう涼しいから!汗も引くから!」
これぞ正に天の助けか。あぁ!アイス最高!
「生き返る〜」
「そりゃ良かった…」
「そーいやさっきの脱いじゃダメ発言は何だったんですか」
「え、いや、その…」
「ハッキリしろや変態」
「言うから変態って言うのやめて!」
「じゃあどうぞ」
「…………っ、君のブラが見えたら俺の理性が持ちそうに無いんだよ」
「………は?」
「…だから!君が汗でシャツが濡れてブラが見えるって言ってたから!必死に止めようとしたの!」
「……………」
顔を真っ赤にして弁解するこの変態地味男を、不覚にも可愛いと思ってしまった自分はこの噎せ返るような暑さにやられてしまったに違いない。
くたばれ太陽
(そーいや今日のブラ黒でした)
(ぶふぉあ!)
(いやぁ、ホント脱がなくて良かった)
(……………)