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□ストーカー疑惑
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「みょうじちゃん」
「何」
「消しゴム貸して」
「ん」
ポーン、と隣に居る坂田に消しゴムを投げて渡す。サンキューと言いながら上手くキャッチした坂田を横目に見やり、私は黒板に書かれた大量の文字に意識を戻した。
高校二年の冬。早い人は大学受験の為に猛勉強を始める時期だ。いや、むしろ遅いのかもしれない。かく言う私も受験の為に最近きちんと勉強をし始めた。
将来の夢や、やりたい事があって大学に行く訳では無い。一応行く理由として将来の夢(仮)は作ったけど。そう、行く為には理由が必要なのだ。こんな曖昧でも、今から将来の事を考え始めないといけないのだから嫌だ。今ここで答えを出したところで、自分が本当にやりたいのかそうでないかなんて、解る訳も無いのに。
「消しゴムありがとな」
「ん」
「…みょうじちゃんさァ」
坂田に名前を呼ばれて横に顔を向ける。坂田が怠そうに頬杖をついて此方を見ていた。一体何だ、私は勉強で忙しいんだ。
て言うかコイツが授業中に起きているのも珍しい。いつもは大概寝てるのに。倫理は寝る勉に限ると言っていたのはいつだったか。
「将来の夢って教師なんでしょ?」
「は?」
何でコイツ私の将来の夢(仮)を知ってんの?まだ担任にしか話してないのに。それにしてもなんてタイミングだろう。先程自分が考えていた事だし。
気怠そうに見てくる坂田に、本気で聞く気があるのか聞きたくなってくる。それが人にものを聞く態度か。小学生だって真面目に聞くわ。あ、そうか、コイツ小学生以下なのか。
怠そうな割には言うまで諦めそうにないので、ここは正直に教えてあげよう。知られて困るようなものでもないし。ただ、本当に自分がやりたい事なのかはまだ判断しかねるけど。
「一応、ね」
「へぇー、教科は?」
「社会系。世界史も日本史も好きだからまだどっちか悩んでるけど」
「ふーん」
やっぱりコイツ聞く気無いだろ。相槌が適当過ぎる。それでもまだ何か聞くつもりなのか、此方を向いたままだ。暫く待ってみたが何も言いそうにないので前に顔を戻した。
するとまた横から自分を呼ぶ声が聞こえた。用が無いなら呼ぶなと言ってやりたいが、取り敢えず顔を横に向ける。坂田は先程と変わらず、頬杖をついたままだ。
「俺の夢もさァ、教師、なんだよね」
「は?」
「だからァ、教師になんのが俺の夢なの。因みに古文ね」
「…あんた現実見てからもの言いなさいよ。万年赤点のくせに」
「ちょ、それ酷くない?」
ちょー傷付いたァーとかそんなに傷付いてなさそうな声色で言い、机にうなだれている坂田。嘘でも良いからもっと感情を込めろ。
て言うかコイツの夢が教師ってどーなの。私が生徒で教師がコレだったら絶対に反発するわ。こんなやる気無い天パに教わりたくないし。
「何か今失礼な事考えてたでしょ」
「気のせい気のせい」
「そぉ?」
何コイツ、読心術でもあるの?ちょーこわーい(棒読み)
まァ夢見るだけなら誰にも迷惑かからないしね。坂田が教師を目指そうが、その果てにニートとかになっても私には関係無いし。
「教師を目指すキッカケとか知りたくない?」
「別に」
「知りたくない?」
「別に」
「………知りたくない?」
「……何?」
目が笑ってないんだけど。有無を言わせない顔、言葉で私を見てくる坂田。個人的には坂田が私と同じ夢だろうと激しくどーでもいいが、聞いておかないと後が怖いので聞く事にする。
「理由はねェ、みょうじちゃんが教師を目指すから」
「…は?」
「みょうじちゃんが教師になるって聞いて俺も目指そうかなって」
「…ストーカー?」
「だってみょうじちゃんが教師で俺も教師ならいつまでも一緒に居られるじゃん?ほら、職場が同じなら仕事中も一緒に居れるし仕事終わりに一緒に飲みに行ったりしちゃって、そんで酒の勢いであんな事やそんなこいだだだだ!」
「一回死んでこい」
何コイツ気持ち悪いんだけど。しかもコレ告白だよね。私の考えが可笑しくなければ告白されたよね私。結構な音量で話していたから周りを見てみるけど、特に気にするでもなく皆前を見ていた。
「全蔵、何で皆私達を空気のように扱うのかな」
「それはお前だけが坂田の気持ちに気付いてないからだ」
「…へ、へぇー…」
何かごめん
(ごめん、マジごめん)
(それはどっちのごめん!?)
(ごめん、マジごめん)
(どっちィィイ!?)
(坂田も報われねェな)