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□蕎麦屋のねぇちゃん
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「はい、そば処山村です」
『小鳥遊事務所ですけど、ざる蕎麦5人前お願いします』
「あ、小鳥遊事務所さん、いつもお世話になっております。ざる蕎麦5人前で、お時間は?」
『えーっと、じゃあ19時頃お願いできます?』
「はい、それでは19時頃に…寮の方で大丈夫ですか?」
『そっちで大丈夫です。よろしくお願いしまーす』
「かしこまりました!ご注文ありがとうございました。失礼致します」

受話器を置く音が響かないよう、先に指で押してから受話器を元に戻す。

よくご注文をして下さる小鳥遊事務所さん。常連さんだけあって、届け先ももう把握しているので、電話が来ても話がスムーズでこちらとしても楽でとても助かる。

しかし今日はタイミング悪く、小鳥遊事務所さん担当の奴が休みだ。まぁ奴はシフトで入ってる訳でもないし、本業の合間を縫って店を手伝っているだけだし仕方無い。でも手伝ってる日に小鳥遊事務所さんから注文があれば我先にと出ていく。同じアイドルだし、仲が良いのだろうか。

というか、天下の八乙女楽が蕎麦屋だなんてことがバレても大丈夫なのか?と前に聞いたことがあるが、バレてないから平気だと言う。目の前の男がバカなのか、小鳥遊事務所さんの所のアイドル達がおバカなのか。どっちにしろ頭が悪いのではと不安になったことは言わないでおいてあげようと思う。



 ▽△▽



ピンポーン

『はい』
「こんばんはー、そば処山村です!お届けに上がりました!」
『あれ?女の人の声だ…あ、今ロック解除するんで中までお願いします』
「はい!」

19時より数分前に到着し、事務所の寮の門の前でインターホンを押し待機する。何やら中からバタバタと騒がしい音がするけど大丈夫だろうか。

ガチャン、と錠が開く音がしたので門を開き、玄関までの道を歩く。ドアの目の前まで着くと、またインターホンがあったので押そうとしたところでドアが開いた。

「毎度ありがとうございます、山村蕎麦です」
「こちらこそいつもありがとうございます!ごめんな、女の子にこんな大量に持って来させちゃって」
「いえ、これが仕事ですから気にしないで下さい」

少し背が低めだけど明るい元気な人、和泉三月さん。見た目の可愛い系に反して中身は兄貴肌。実際に同じメンバーの和泉一織の兄らしい。

「あっ、やべ!肝心のお金持ってくんの忘れた!大和さーん!お金ー!」

持って来たざる蕎麦を靴棚の上に置き、伝票を用意していたら和泉さんがいきなり大声を出すものだからビクッと反応してしまった。少し恥ずかしくて目の前の人にバレてないかと盗み見たが、お金の催促で忙しいらしく全然こちらを見ていなかった。良かった。

「なんですかー、お兄さんはお金じゃないですよー」
「揚げ足取んなよおっさん!」
「はいはい、ってあれ、今日はあのお兄さんじゃないんだ」

財布を手の上でポンポン跳ねさせながら、面倒くさそうに歩いてくるこの人は二階堂大和さん。顔が少し赤らんでいるし、もしかしてお酒でも飲んでいたのかもしれない。

というか、あのお兄さんじゃない、って私に向かって言ってきているってことは、私が答えなきゃいけない感じか。

「あー、いつもの彼今日はお休み頂戴してまして」
「あ、そうなんだ。なんだ、折角八乙女と感動のご対面出来ると思ったのに」
「は」
「なー!タイミング悪かったな!」

なんだろこの人達、二人共酔っ払ってんのかな。ハハハと笑っている目の前の二人を胡乱な目で見る。

「おい、いつまで玄関に居るんだよ」

奥の方から顔を覗かせた男に更に目が死んだ。何でお前ここにいんだよ。

「あ、八乙女ー!今日はそっくりさんじゃなかったわ!残念!」
「あぁ、俺に似てるって言う奴か」
「八乙女がうちに来ること滅多にないからチャンスだと思ったんだけどな」
「あれ、なんかお姉さん目死んでない?」

そりゃあな。

八乙女楽。奴とはまぁ、言ってしまえば幼馴染みたいなもんだ。山村蕎麦屋の隣に我が家がある。小さい頃から山村のおじいちゃんが蕎麦を打ってるところを見るのが好きで、よくお店に出入りしていた。そのため楽とは小さい頃からよく顔を合わせていた。親が離婚し、父親に引き取られてからも、楽は父親の目を盗んではお店に来ていた。そして私は今山村蕎麦で働いているし、この関係も続いている。

しかし昔からこの顔を見慣れているせいか、イケメン耐性がついてしまった。お陰でイケメンが側に居ても冷静でいられる。むしろ楽を見ると死んだ魚の目みたいになる。でもアイドリッシュセブンはお得意様という贔屓目もあり好きだけどね。

「いやぁ、すごい、まさか抱かれたい男No.1の八乙女楽さんまでいらっしゃるなんて」
「お姉さんめっちゃ棒読み」
「ていうか八乙女さんに似てるとか言われてるうちのスタッフなんて八乙女さんの足元にすら及ばないですよー」
「お姉さん目怖い」

楽は顔を引き攣らせているし、和泉さんと二階堂さんは若干引いてる気がしないでもない。まぁ、変に慣れ合うつもりもないし、何よりお仕事中ですし。印象悪くなければ良いんです。
 
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