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□世界平和
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「ヒバードー、ほれ、餌やるぞー」
「…………」
「ほれ、ほれ、此方来い」
「…………」
「オーイ」
「…………」
「…さっさと来やがれこんの腐れ鳥ィィイイイ!」
「さっきから煩いんだけど。あとヒバードに喧嘩売らないで。咬み殺すよ」
「…………」
暇だし調度お昼の残りのパンがあったからヒバードにあげようと思い、風紀委員の溜まり場、基応接室に行った。
並盛最凶との噂も名高い風紀委員長様とは物心つく前からの仲である。親同士が仲良かったせいか、私達は二人で遊ぶ事が多かった。
彼は小さい頃から群れる事を嫌っていた。それでも私だけは彼の傍に居る事を許されていた。
ある日、彼は私に群れないように強要してきた。彼は私に友人が出来る事を酷く恐れていたのだ。そしてその気持ちに気付いた私はその条件を素直に聞き入れた。
彼にとって私しか居ないように、私にとっても彼しか居なかったからだ。
「何だよ恭弥君。て言うかヒバードが近寄ってこないんだけど」
「君が取って食いそうな顔してるからじゃないの」
「ム、失礼な!生の鳥肉は食べないよ!カンピロバクターにあたりたくないもん!」
「…突っ込む所違くない?」
今日も彼は私の言動に逐一反応してくれる。自分で言うのも何だが毎回毎回突っ込み等入れて疲れないのだろうか。
「何でヒバードは恭弥君にしかなつかないんだ?」
「さぁね」
「て言うかヒバードってネーミングセンス無さ過ぎじゃない?」
「犬にゴールドスプリングとか名付けた君に言われなくないよ」
「何でい!格好良いじゃんか!」
「……はぁ」
突っ込むのも面倒だとでも言いたげに溜め息を吐いた彼は、やり途中だった書類へと顔を戻した。放置された私も、ゴールドスプリングの事を思い出し恭弥君と同じ様に溜め息を吐いた。
私が小学3年生の時に我が家へとやって来た仔犬は、ゴールドスプリング(以下ゴース)と名付けた。ちなみに春生まれの女の子だ。動物好きな私は滅茶苦茶可愛がった。この時私にとって大切なものは、ゴースと恭弥君だった。
そしてある日、ゴースは死んだ。私が小学6年生の時だった。
散歩をしていた途中で、私が目を離した隙にゴースは死んでいた。頭から大量の血を流して。医者が言うには石か何かで殴られた、人為的なものらしい。泣いた。それはもう一生分出たのでは無いかと言う位泣いた。
それから何日か経ち、幼馴染みの彼にこの悲しみを知ってもらおうと話をした。そうすると彼は、
『知ってるよ、だって僕が殺したんだし』
頭が真っ白になるとはよく言ったものだ。それを聞いた瞬間、本当に何も考える事が出来なくなった。呆けている私に彼は続けた。
『だって君が僕との約束を破ったんじゃないか』
あぁ、そうか、私のせいでゴースは死んだのか。私が彼とは違う子と仲良くしてしまったから。ごめんねゴース。私が貴女を可愛がってしまったばっかりに。
そして私はまた泣いた。一生分出たと思っていた涙は、まだ沢山残っていたみたいだった。余談だが、涙は枯れる事は無いのだとこの時初めて知った。
話は戻り、それからは私と恭弥君は毎日の様に一緒に居る。だって恭弥君以外に友達なんて居ない。まぁ、たまに話をしたりする奴は居るけど。
「そーいやさ、この前沢田と初めて話したんだー」
「…………」
「ダメツナとか色々言われてるけど、良い奴だね」
「………何、それ僕に喧嘩売ってんの?」
「勝ち目の無い喧嘩なんて売りませんー。ただ恭弥君、沢田とたまに話してんの見掛けるから」
「だからって君はあんな草食動物と話す必要は無いよ」
「へーい。あ、でも獄寺とかは?あいつ肉食っぽいじゃん」
「……また僕との約束破るつもり?」
「………」
「君って人は懲りないんだね」
「………」
「あんな辛い思いをしたのに」
「……そんな訳無いじゃん」
あぁ、誰か私に彼から離れる術を教えて下さい。
「私は恭弥君しか要らないもん」
世界の平和を守る為
(私は彼と生きていく)