戦国

□仏の嘘を方便といい、武士の嘘を武略という。
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ゆら、と死神が近付く。


「西から帰り道に、」


辛うじて瞳を開けたが、指一本動かない佐助の躯の上から、赤くヌメる舌が囁く。



「こんな甘露があるなんて…素敵ですね…。」



囁きは愛おしむ様に、長い爪を佐助の右肩の傷に這わせ、



「…、っ…。」



優しく傷に指を差し入れ、爪でゆっくりと掻き出す。


芯を貫く灼熱の痛みに躯を支配されたが、佐助は声を出さない。




「痛いですか?苦しいですか?嗚呼、答えてくださいよ。」



「………。」



自分の台詞と血に酔いながら光秀がグチリと指を抜く瞬間、更に激しい痛みとフラッシュバックのような眩暈に気を飛ばしそうになるが、ギリギリの所で堪える。



「ふ…流石は忍。壊しがいがありますね。…その目、」



拷問を受けても、何一つ変わらぬ佐助の冷たい視線に高まる興奮を隠さない。

女の様な細い容姿の光秀だが、嗜虐心を煽られ、ジワリと熱が集まる雄を抑え切れずに、本能のまま腰がヒクヒクといやらしく揺れる。



「アァ…いいっ…」



佐助の表情は変わらない。だが、障気に蝕まれた身体の限界が近い。


幽玄の如き死神が、チキと鎌音を立てながら致命傷ギリギリを愛撫する為に近付く。



朱い死神が舞い降りる。

忍に逃げ場は何処にも無い。



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