戦国

□蝶よ、私の主人がおまえを逃がすはずはないぞ。
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部屋に入るなり、むせ返る匂いに怪訝な表情になるが、口元には出さない。
兜を常日頃被る彼の表情が見える者はまずいない。




梅雨の走りに、北条の主からの依頼で風魔小太郎が松永久秀に仕えてから一月たつ。


(しかし、)

風魔は思う。

松永には伝説の忍の必要性が微塵も感じられない。戦も暗殺も特に無い…。
風魔に此処は居心地が悪い。



今の主は小太郎の居心地の悪さを知りつつ、器の目利きや話の相手をわざとさせているようだ。





だが、

(今夜は 違う) 



生理的な部分に伝わってくる妖しい予感に、僅かに肩を落とし、静かに主の後に降りる。





−−


「これは、以前知り合いに譲り受けたものでね。此処の色合いに舌を巻いたものだ…」


何時もの様に、説明をしているうちに、悦にはいった松永は小太郎がいる事を忘れたように茶器に魅入る。



風魔は、大人しく頷く。




だが、僅かに呼吸が乱れ始めていた。




−…風の忍はこの甘い香の正体を、主から無理矢理教えられていた。




「律儀な忍よ。」



あの時から、
小太郎をそう呼ぶ松永が茶器を置き、その肩に触れる。






−−−
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