戦国
□蝶よ、私の主人がおまえを逃がすはずはないぞ。
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額の汗を隠し呼吸を整える事に意識を集中していたが、むせ返る甘い香に逆らえなかった。
長い時間、淫薬の香を嗅がされている小太郎には、その小さな動作も堪らない。
香を使っても忍が逃げないこと知った松永は、くっくっと艶笑を浮かべる。
「本当に律儀な忍よ。」
後ろに控える忍に笑いながらゆっくりと近付く。
その唇で耳全体を覆うように噛り付き、《はぁ》と、わざと熱い息を吐く。その口のまま更に声を低く絞り、あからさまな言葉で小太郎の芯から追い立てる。
「残酷で廉恥な伝説の忍、卿を全てさらけ出してみたまえ。」
意識が混濁し始め、耳元で紡がれるくぐもる声に、五感がピリピリと痺れ肺は空気が足りないと激しく喘鳴する。薬のせいだと警鐘ならす本能と吐き気を、必死に意識下に押さえる。
松永はいきなり兜を外した。
「……っ…」
赤く長い前髪をかき分け、嬌羞を含むまなこを捕らえようとする。しかし、朦朧とする小太郎がフルフルと頭を振りながら、無意識にその手を避けようとしてしまった。
(見ては ダメだ)
峻拒する忍に眉を曇らせると、唇を首に荒々しく這わせ、仕置きとばかりにちぎれる程に噛み、舐め上げる。
鋭い痛みとともに、不意に記憶の火が僅かにつき、我に帰りながら小太郎は考えた。
大人しくなった小太郎を見て、引き出した胸の尖りを親指の腹と爪で緩く撫でては転がし弾く。
初めは痛みを伴っていたそれがぷっと膨らむのを確認し、喰らうように浅ましく吸上げる、ぴちぴちと朱い舌のねっとりとした熱さや、僅かな甘さを含みながらいやらしく啜る淫声。
小太郎は五感からの凌辱に、全身をあわ立たせた。
長く執拗な愛撫に、意識下とは裏腹に胸はふっくらと赤く染まり、肺を大きく動かして空気を求める白い喉やテラテラと光る涎、全身を包む青い精悍な筋肉が対象的にうごめく。
噛まれた首に痛みが走り、たらりと流れた血で先程の記憶が炎に変わる。
(獣 だ)
その行為は昔見た血を流しながらまぐわう、獣の交配にその物だった。
なら 私は
(このまま 食われる)
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