姫乃は空を、月を眺めていた…いや、見上げていた方が正しいのかもしれない。


彼女の腕に絡みついている羽衣がふわふわと浮かんで月に照らされている。



それでも気にせずに食い入るように姫乃は月を眺めていた。


そして、一説だけ覚えている歌を謳う。


悲しい歌声が風に溶けて闇に戻る。


唯一、歌が弱音を吐ける空間だ



「…姫乃ちゃん?」


振り返るとツナが月明かりに照らされる姫乃の姿を捉えていた。


「ツナ君、起きてたんだ」


振り返り姫乃は微かに目を開くとすぐに笑顔に変わる



「ちょっと眠れなくて…姫乃ちゃんは?」

後頭部をさすりツナは苦笑すると今度は姫乃に問いかけた。


「わたし?」


不思議そうに首を傾ける姫乃は捉えどころのない神秘的な表情だ。



「私は…寝たらそのまま起きられない気がして…怖い。」

だから眠たくなくて……とさっきの笑顔とは打って変わって萎んだ花のようにうつむいて自嘲地味に笑んだ。



「……っ」



ツナは驚いて次に出す言葉が見つからない。


そんなツナを見て感づいたのか姫乃は目線を月に向けて口を開き始めた。

「こんな事に怯えて眠れないなんて本当にわたし臆病だよね…」


できるならこんな自分をツナ君に見てほしくなかった。


いつもの通り笑って会話したい

なのに、今の気分と感情は姫乃をそうさせない。


「姫乃ちゃん…」


哀愁感漂う姫乃にツナは切なさとやるせなさが入り混じる表情を浮かべた



なんで彼女だけがこんな思いをしなくてはならないのか。



そう思うとツナは泣きたくなってきた



「ツナ君…私いつか…」


「それ以上言ったら駄目だ」


ツナの静かな声が虫の音をかき消す。



「オレが姫乃ちゃんを助ける。だからそれ以上言わないでほしい」


「ツナ君…」


希望はまだ潰えたわけではない。

しかし、ツナには確信がなかった。


けれど、いま姫乃に言える言葉はこんな台詞しかない。



「…ありがとう。私ツナ君を信じる…ううん、信じたい」


近くに寄りツナの手を握りしめると姫乃は儚げに微笑んだ。


『貴方を信じます』

そして、姫乃の声に重なるように別の女性の声が聞こえた気がした。



月夜の虫の奏でる音の中で、姫乃たちはただただお互いを見つめていた。






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これからも翼の名残をよろしくお願いします!



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