story

□under the tree
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ってな感じに姉貴に上手くのせられて、駅前までパシられた。
まぁ雪菜さんに美味い鯛焼き食わせてやりたいしな。うん。
…いいとしよう。

差し入れです!って声をかけるくらいなら…許されるよな。編み物中でも。

「待ってて下さいっ!ゆっきなすゎん!」



とまぁ気分も上々に鼻歌を唄いながら歩いていたら、通りすがりの公園から懐かしい妖気を感じた。
懐かしいといっても、あまり…いや、全くそいつから好意を受けたことはない。

断言するが、一度もない。

声をかけたところで、いつものように腹立たしい言葉が返ってくるだけ。
そう思って、無視して通りすぎようとした。
だが、なんとなく…そいつから漂う妖気が悲しい感じで。助けを求められているようで――…

俺は渋々、公園の入口をくぐった。
そしてその妖気を感じる木の下へ。


きっと奴も俺のことに気付いているだろう。
そう思って、その木をドカッと思いっきり蹴ってやった。
おーい、飛影。いるんだろう。

そう声をかけようとした。
しかし、声をかける間もなく、黒い影が派手な音を立てて落ちてきた。


「あれ?」
自分でもわかるが、俺はかなり間の抜けたツラをしたと思う。

「貴様っ…何をする!」


そいつは頭をさすりながら、相当な殺気のこもった眼で俺を睨んだ。
俺ごときに木から落とされたのが悔しいんだろう。
ふっ、してやったり。

…自分で“俺ごとき”なんて言うのは悲しいが、きっとこいつにとっては“桑原ごとき”だ。うん。
ちっ、チビのくせに生意気な奴だ!


いやしかし、こいつが油断してるなんてな。俺に気付いてなかったのか?

「や、まさか落ちてくるとは思わなかったからよぉ…珍しいじゃねぇか。
お前、何かあったんか?」

すると飛影は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべてそっぽを向いた。
さっき感じた悲しい感じってのは、当たっているかもしれない。
いつもの飛影なら、ここで俺の顎にでも剣先を向けているはず。

俺はなんだか、ちょっとばっかし心配になった。
こんな野郎でもそれなりの付き合いはあるからな。


「悪かったって。ほら、立てよ。詫びの代わりに鯛焼きでもご馳走すっからよ」

「…鯛焼き?何だそれは」

“鯛焼き”に興味を持ったらしいそいつは、トコトコと俺の後ろをついてきた。
大人しくベンチの俺の隣に座り、鯛焼きを頬張り始めた。

いつもこうなら、それなりに可愛いのになぁ。

何なんだか。
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