story

□under the tree
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その鯛焼きはなかなか上手かった。
飛影の奴が調子に乗って三つも食うもんだから、俺は後で再び買いに戻るはめになった。
くそぅ…。


「で?どうしたんだよ。俺の気配にも気付かないで、木の上なんかでぼーっとしやがって。
何かあったんだろ?」

飛影から返事は返って来ない。
でもその表情を見ると、こいつが結構煮詰まってるのがわかった。
何かを言いたそうにしている。“俺ごとき”に。

よし!ここはいっちょ、この桑原和真様が相談に乗ってやろうじゃないか!


「言ってみろよ。どうしたんだ?

…蔵馬のことか?」

俺はいきなり核心をついた。
だってこいつがこんなに悩むなんて、蔵馬のことに違いねぇ。
だから疑問形だったが、かなり確信を持って言った。

おれの指摘に飛影の奴は眉をピクッと動かし、唇を噛んだ。
よし、ビンゴ。
またこいつが蔵馬のことを怒らせたんだろ。
俺はそう思い、次の言葉を紡いだ。


「喧嘩でもしたのか?どうせお前が悪いんだろ。
とっとと謝っちまえよ」

「……」

「ん?」


俺は正直、ここでまた生意気な言葉が飛んでくるのかと思った。
何故俺が謝らなければならんっ!とか。
…しかし、返ってきたのは予想外の反応だった。
どうやら軽い悩みじゃないらしい。


「……あいつは、」

「あ?」

「あいつはわからん。
俺が悪いと思って謝っても、俺は悪くないと否定して…自分が悪いのだと言う。

明らかに俺が悪いときにでも、そう言って己を悪者にする。そして…悲しそうな表情で笑う。

…わからん。あいつは何がしたいんだ?俺に気を遣ってでもいるのか?
それとも俺が…信用ないのか?」

そう言い切ると、飛影は一息ついて俯いた。
そして足元の砂をジャリっと踏み潰す。

こいつがこんなマジに相談してくるとは、思っていなかった。
予期せぬ展開に、俺は若干戸惑ってしまった。
しかし、そうか。蔵馬との間にそんな悩みが…


最初は、ちょっとくらい飛影のことをからってやろうと企んでいた。
いつも俺のことを馬鹿にするこいつに、仕返しするチャンスだと。おちょくってやる予定だったが…
こんな表情を見せられたら、それも少し可哀相になってきた。

それに、この俺に相談するほど飛影が悩んでるってことは、蔵馬も苦しんでるはずだしな。
あいつは俺の大事なダチだ。


…しかも、なんだかそれって似てやがるんだよなぁ。うん、似てる…。
だから他人事とは思えなかったんだ。
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