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□〜乱舞記〜四の章
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「くそっ…我慢ならん」
その後黄泉は、躯に話があると告げた。
蔵馬と飛影を、このままにしておくのに耐えれなかった。
「何でしょう、黄泉様」
「おい、躯。次の晩に私と蔵馬殿が閨屋にいる間、お前が飛影の相手をしろ」
「なっ…あの従者の!?何故、そんな…」
「主に従順なあの臣下も、お前に誘われたら本性にある欲を吐き出すだろう。
…あの二人の信頼を壊してやる」
これは躯にとっては辛い命であった。
自分が想う人の恋敵と寝るなんて――…。虚しさ以外の何でもない。
しかし躯はわかっていた。この主に恋をした時点で、そんな虚しさなど棄てなければいけないのだと。
この主の命じることなら、自分はどんなことにでも従うしかないのだと。
例えそれが、自分にとって心に痛みを伴うものであっても。
「…承知しました、黄泉様」
「ふふ、お前は本当に有能な側近だ」
「有り難きお言葉」
躯は胸の内に込み上げるものを、必死に押し殺した。
**
「蔵馬様、お身体は大丈夫ですか」
「飛影…。黄泉殿も無茶をしてくれるよね。全く…」
「お手入れを…」
蔵馬はこんな生活の中でも、些細な幸せを見付けていた。
この従者に自分の想いは届かないかもしれない。けれど、こうやって一番近くで自分を支えてくれる。
今はそれだけで十分だった。
色恋を交えた目で自分を見てくれなくとも、主としてしか見てくれなくとも…その心は、自分にある。
飛影の方も、できる限りに愛しき主に仕えようとしていた。
このような時間、痛みの跡の残る主を何度も抱きしめたいと思った。
しかし、正しく主に仕えるために、そんな感情を葬ってきた。今はこうするしかないと――…。
いつかはその衝動を抑え切れなくなるだろうと、心に思いながら。
動き初めていた二人の心を、黄泉は邪魔しようとしていた。
「蔵馬殿…その信頼が偽物であると、思い知らせてやる」
to be continued..