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□〜乱舞記〜五の章
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蔵馬は、いつもとは何か違うことに気付いていた。
いつもなら飛影は待機するために、扉の外に腰を降ろす。
そのとき必ず、飛影の刀が床と擦れる音がするはず。
しかし今日はそれがなかった。
そればかりか、どこか別の方へ歩いて行った気がする。

“何だろう…。飛影…”

何故だか胸騒ぎがした。
そのせいで、動きがぎこちなくなる。
なかなか自分のもとへ近付かない蔵馬の手を、黄泉は引っ張った。

「あっ」

「どうしたのかな?蔵馬殿」

「いや…」

黄泉はいつも通り、蔵馬が着ているものを強引に剥ぎ始めた。
いつもなら力一杯それに抵抗するのだが、今日は飛影が気になってそれができない。

「ふふ、今日は覇気がないように見えるが?いつもの元気はどうした?」

「くっ…、馬鹿にするな」

蔵馬のその様子に、黄泉は笑みを零した。

予定通り、躯があの厄介な側付きを夜に誘った。
躯の美しさとその身体は、名品とも謳われたことがある程のもの。
いくら従順な側付きとはいえ、男がそれを目の前にしたら欲望に勝てるはずがない。
黄泉はそう考えていた。

「…あの従者が気になるのだろう」

「っ!何を…何を企んでいる!飛影をどうした!

飛影に何かあったら…」

「何かあったら、どうするというのだ。蔵馬殿、貴方に何ができる?」

「飛影に何かあったら、自害してやる!そうしたら兄上が此処を攻める。
そうしたら、地梢は終わりだ!」

「ふっ…」

黄泉は言いながらも、その手を休めることはない。
蔵馬の身体の敏感な部分を刺激する。

「くっ…」

「安心しろ、飛影の命を取る気はない。
むしろ蔵馬殿にとっては、それより辛いことかもしれない」

「何だって?飛影に何を…」

「彼らは今、私たちと同じような事をしている」

「えっ…?」

黄泉の言ったことに、蔵馬は言葉を失った。
飛影があの綺麗な女と…

「躯の身体は一品だ。いくらあいつでも、男がそれを目の前にしたら…どうなるだろうな。

蔵馬殿。もし飛影が自ら望んでそれを手にしたら…どうする?
それでも我々を責めて自害すると?」


ずっと飛影を想ってきた。そしてその想いを、伝えられずにいた。
しかし、ここに来てからの生活で…飛影の態度で、もしかしたら飛影も同じ気持ちなのではないか。
そう仄かな期待を抱き始めていた。

いや、もしもその気持ちが違うものだとしても、飛影が特別にするのは自分だけだと……
飛影の気持ちは自分だけに向けられるものだと、自惚れてきた。

性別を同じくしても、そんなものは関係ないと思っていた。
しかし…あんな綺麗な女に迫られたら、飛影は…

自分では、


「敵うわけ…ない」

虚ろな表情で…ぎりぎりの心で、蔵馬は言葉を紡いだ。
黄泉は愉しそうに笑みを作る。

「そうだ、蔵馬殿…飛影はきっと貴方を裏切る。
今日こそ私との行為を楽しみなさい。今日こそ…

啼きなさい」



to be continued...
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