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□〜乱舞記〜六の章
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「“黄泉様のためなら何だってする”…そうですね。貴方は黄泉殿を愛している」
「…それがどうした」
「蔵馬様が黄泉殿に堕ちることが、地梢のためになる。そうお考えですか?
もしそうなら、それは浅はかだ。今回の質(しち)の話は、あくまでも身柄の話。
国王やご兄弟様達は、黄泉殿が蔵馬様を閨に連れ込んでるとはお考えにありません。
真実をお知りになれば、きっとお怒りに触れるでしょうね。
それでもこれが、黄泉殿のためになると?」
「…っ、」
「黄泉殿が望むことなら何でも叶えたい。それこそ貴方の個人的感情だ。
色恋に現を抜かし、臣下としての判断を確実に見誤っている。正しい判断を出来ずにいる」
確かにその通りだと、躯は思った。余りにも的確で、言い返す言葉も見当たらない。
しかし、どうすればいいのか。敵国の御曹司を執拗に想う国王を愛する、自分の想いは――…。
叶うはずのない想い。心の奥底に閉じ込めるしかない、この想い。
躯の涙が、飛影の頬を濡らした。
「躯殿、この縄を解いて下さい。私は蔵馬様のために待機しなければならない」
躯は緩慢な動作で、それを解いた。
「飛影殿、貴方は…いいですね。想いが通じ合っていて。
確かに、貴方の言う通りです。しかしそれは、蔵馬殿と想いが通っている貴方だからこそ言えるんだ。
想いに背かず動くことが、蔵馬殿のためになるのだから。…今回のように。
しかし、私は…この想いを押し殺すしかないのです」
「それでも貴方ができる最善の策は、黄泉殿を正しい方向へ導くことだ。
信用ある有能な側近として…そして、黄泉殿を愛する一人の女として」
「…そうですね」
躯は飛影の上から退き、その身を完全に自由なものにしてやった。
**
「…飛影殿、何故…」
「私の全ては蔵馬様のものです。他の誰にも渡さない」
「黄泉様、申し訳ありません…」
黄泉が悔しそうに歯をギリリと噛んだ。血が滲む程に強く握り締めた手は、わなわなと震えている。
飛影はその男がもう閨室に戻るつもりがないことを確認すると、腰を上げた。
黄泉は飛影のその様子に鋭く睨んだ。そして躯も、その姿を一瞥する。飛影は黄泉を睨み返した。
「蔵馬様のお身体のお手入れに」
飛影はそれだけ言うと、二人を置いて蔵馬の方へ向かった。
部屋の中に、蔵馬が涙に濡れた目でこちらを凝視しているのを確認する。
すぐ傍まで歩み寄り、自分より随分と華奢なその身を抱きしめた。
「蔵馬様…」
「飛影…飛影っ!躯殿と交わっているんじゃ・・・・・」
「そんなはずがありますか。私の全ては蔵馬様のものです」
「飛影…」
蔵馬は飛影を強く抱きしめ返した。
「蔵馬様…もう限界です。
私は臣下として、貴方に正しく仕えられない。
蔵馬様、貴方を愛しています…一人の男として」
to be continued...