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□〜乱舞記〜四の章
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蔵馬の身体の手入れを終え、二人は与えられた自室へ戻った。
道すがら、二人は終始無言で歩いていた。いつもは自然と合う歩調も、今日は合わない。
蔵馬は飛影の僅か先を歩いた。飛影の顔を、見ることができなかった。
蔵馬の胸中を考えると、飛影も無理に寄り添うことができない。

蔵馬は先程の黄泉との行為を、頭の中で目一杯否定していた。
扉の向こう側に飛影を携えながら、黄泉の相手をしたという事実を、認めたくなかった。
声を上げることだけはなんとか我慢できた。しかし、結局は全て流されてしまったという現実が、蔵馬の心を煩わせていた。
悔恨の念が、襲う。

身体中に残る痛みが、現実を否定しようとする蔵馬を邪魔する。
思い知らされる。

自分の身体は黄泉に負けたのだと。

最初は自分が愛するものとがよかった。長年連れ添った臣下とが――…
しかしその願いも叶わぬまま、想いも通じぬままの、喪失だった。


自室に戻ると、蔵馬はすぐに横になった。飛影に背中を向けて、彼を拒絶するように…
飛影はそんな胸の様子に胸を痛めながら、側に控えた。最初は声をかけることも躊躇った。
しかし、蔵馬の縮こまった背中を、苦しみを独りで押し潰そうとする背中を見ていると、それも堪えられなかった。

「蔵馬様、お身体の具合が悪いのでは…」

「平気。放っておいて」

「しかし…」

「いいって!」

食い下がらない飛影に対して、蔵馬の声も大きくなった。

「どうせ明日もあいつの相手をしなきゃならないんだ!こんなことで音をあげてられないよ」

「蔵馬様…」

蔵馬が現在の状況に苦しんでいるという事実が、確かにつらかった。
しかしそれより飛影が悲嘆したのは、蔵馬がその苦しみを抱え込み、自分を頼ってくれないということだった。

いつからか蔵馬は、一定のところで飛影に線を引くようになった。
昔は…もっと幼かった頃は、純粋に全てを飛影に曝け出していたのに。





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