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□〜乱舞記〜五の章
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一晩、また一晩と夜が明ける度に…黄泉との夜を重ねる度に、飛影との距離が縮まっている気がした。

地梢に来たばかりのときは、一枚戸を隔てて夜を過ごしていた二人。
それが今は、蔵馬のすぐ隣に飛影はいる。

従者としてはあるまじき行為なのかもしれない。
しかし、もはや二人とも、そんな規律や風習なんて問題ではなかった。

ただお互いの傍に…お互いの温もりを感じられるところに。
言葉などはなく、それだけの想いが飛影と蔵馬を引き寄せていた。

飛影はいつも、蔵馬が寝付くのを見届けてから就寝していた。
ときどき、その美しい顔が苦痛に歪むときがある。
あまり口には出さないが、やはり黄泉との行為が彼を追い詰めているのだろう。

そんなとき飛影が蔵馬の頬を撫でると、その顔は緩んで穏やかさを取り戻す。

この主の苦しみを取り払うのは、いつでも自分でいたい。
自分だけは絶対に彼に苦しみを感じさせたくない。
彼にとって自分は、全てを預けられる存在でいたい。

それが飛影の譲れない場所であり、想いだった。

早く絽海との戦に片を付けてほしい。
そして二人で空羅に帰ったら、この想いをそっと蔵馬に告げよう。
飛影はそう心に決めていた。

「蔵馬様…私はもう従者としての立場を全うできません。

貴方を…愛しています」


それは蔵馬の意識が眠りに奪われている時のみ、口にできる詞(ことば)だった。
今はそれで留めていた。
そして、それが精一杯だった。



戸の隙間から暖かい色をした光が射し込み、鳥たちの鳴く声が聞こえ始めた。
朝の時が訪れたことを象徴する印。
その柔らかな外の様子が飛影を目覚めさせた。

胸の傷む想いを抱えて意識を預ける夜とは違って、意識を取り戻す朝はこんなにも穏やかで。
飛影はぎりぎりの時間まで蔵馬を寝かせて、その肩をゆすった。


「おはようございます、蔵馬様。ご気分はいかがですか?」

「あ、飛影…おはよう。うん、大丈夫だよ」

「そうですか…しかし、あまり無理はなさらないで下さい」

「わかってるよ。ありがとう」

すでに身支度を整えていた飛影は、その日の蔵馬の服も揃えていた。
いつもきちんと整えられたそれに、蔵馬は目を見張る。

「飛影はいつも早起きだよね。どうやってそう起きられるの?
早く起きて、暇じゃない?」

「いえ、習慣ですし……それに、蔵馬様の寝顔も見られるので」

口の端を吊り上げて意地悪く笑う飛影に、蔵馬は顔を赤くした。

「もう!これからは自分で起きるよ!」

「ふふ、それは楽しみです」




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