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□〜乱舞記〜六の章
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「いくら飛影殿が常日頃からあなたに忠誠を誓っていようと、所詮あやつも男。
目の前に女の肢体を投げ出されれば、手をつけないわけがない。

さぁ、蔵馬殿。飛影殿など今は忘れてしないなさい。私は貴方を愛している」

「あ…」

「啼きなさい。つまらない意地など捨て…わたしにその身を委ねなさい」


蔵馬の目からは一筋の悲しみの色を帯びた雫が。
黄泉はそれを唇で拭い、そのまま蔵馬のこめかみへと口付けた。
指通しのいい柔らかい髪を撫で、こめかみから耳元へ、肌を伝いながら唇を移動させる。そして、囁く。

「今頃、貴方の飛影は躯に…快楽の渦の中に堕ちているだろう」


優しい動作で、残酷な言葉で、蔵馬の精神にヒビを入れる。
必死にそれを守ろうとする蔵馬を尻目に、一打、また一打とヒビを広げる。
その重圧に耐えかねて破片が崩れ落ちようとした、その時だった。



カタン――…。



それは蔵馬が聞き慣れた音だった。
飛影が閨室の外で待機をするとき…腰を下ろす時に、飛影の刀が床とぶつかる音だった。
その音の波動が蔵馬の精神の破片を支えた。意識が徐々に覚醒し、その音の意味を理解し始める。


「ひ、えい…?」

「…ぐっ、何故だ!何故こんなに早く戻る!躯が…躯が失敗したというのかっ」

「飛影…」


蔵馬の瞳から悲しみの色が消えた。飛影が今、そこにいる。――飛影は堕ちなかった。
たったそれだけのことで、こんなにも心が落ち着きを取り戻す。
蔵馬の心はもはや黄泉の元にはなかった。戸を越えてまっすぐに、愛する飛影の元へ向けられる。

蔵馬はまた、涙を流した。


「飛影、飛影…」

「くそっ」

黄泉はちょうど蔵馬の顔の横にある枕に、思いっきり拳を沈めた。
そして、はだけた着衣をそのままに、戸を開けて閨室の外に出た。
そこには迷いのない眼で黄泉を見据える飛影と、顔を俯けたまま上げない躯の姿があった。

躯の肩が震え、緊張しているのがわかった。
ちょうど対峙するように座っている二人に近付き、その手前で足を止めた。


「…飛影殿。何故…」

「私の全ては蔵馬様のものです。他の誰にも渡さない」

「…っ」

「黄泉様、申し訳ありません…」


躯がかろうじて発した震える声は、消え入りそうな程に小さかった。






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